【宮台真司】「すべての女性が輝く社会づくり」あれは一体何だったのか? 空洞化する社会の「問題の本質」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【宮台真司】「すべての女性が輝く社会づくり」あれは一体何だったのか? 空洞化する社会の「問題の本質」

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第7回〉


社会学者・宮台真司が、旬のニュースや事件にフォーカスし、この社会の〝問題の本質〟を解き明かした名著『社会という荒野を生きる。』がロングセラーだ。天皇と安倍元総理、議会制民主主義、ブラック企業問題、感情の劣化とAI、性愛不全のカップルたち、承認欲求が肥大化した現代人の不安……etc.「我々が生きるこの社会はどこへ向かっているのか?」「脆弱になっていく国家で、空洞化していく社会で、われわれはどう生き抜くべきなのか?」。まず社会の問題の本質を直視し、理解すること。そのうえで冷静に物事を判断するための智恵が必要だ。「明日は我が身の時代」を生き抜くための処方箋に満ちた本書から本文を一部抜粋連載して公開する。第7回は、「すべての女性が輝く社会づくり」あれは一体何だったのか?  今はまったく聞かれなくなった「すべての女性が輝く社会づくり」。2015年当時、宮台真司は何を語っていたのか。ここにこの社会が抱える問題の本質が如実に表れている。(『社会という荒野を生きる。』から抜粋連載)


政府は2015年6月に「すべての女性が輝く社会づくり本部」の会議を開催し、今後1年間に実施すべき「女性活躍加速のための重点方針2015」を決定しました。

妊娠出産に絡む女性への嫌がらせ、マタニティハラスメント防止のための法整備に取り組むことが柱となっています。

また、内閣官房[内閣総理大臣を直接に補佐および支援する内閣の補助機関]は「女性が暮らしやすくなる空間へと転換する象徴」としてトイレ、特に公共トイレの改善を掲げたり、輝く女性応援会議の公式ブログで「毎日キャラ弁を作るお母さん」を紹介したりしています。

しかし、これについてネットを中心に、「は? 輝く女性対策でトイレってどういうこと?」といった声や、「弁当作りが女性の仕事と決めつけているのではないか」など、批判的な意見が相次ぎました。

このような政府の「女性が輝く社会づくり」は、いったい何を意味していたのでしょうか? 

 

■何でそれが「女性向けの政策」になるのか説明しろ!

 

 久々に大爆笑しました。内閣官房は随分ヒマじゃないか! トイレが快適になれば女性が輝く? はっ? なんで「女性が」なの? 誰もが使うトイレだろ? 快適になれば男性も輝くぜ? 子供も輝くぜ? 馬鹿言ってんじゃないよ、内閣官房! 幾ら何でもヒマすぎるだろ。

 キャラ弁、ミッフィーやアンパンマンなどの顔をお弁当で再現するキャラクター弁当のことですが、だからなぜ「女性が」なの? キャラ弁作るお父さんだったら一層素晴らしいだろうが。なんでそれが女性政策になってるんだよ、内閣官房!

 もちろん母親がキャラ弁で愛情を表すこともあるでしょうよ。しかし父親がキャラ弁で愛情を表すことだってできるぜ。だったら何で弁当を女が作らなきゃいけないんだ、コラ……といった問題に切り込めよ、内閣官房! 後で言うけど、そこにポイントがあるんだろうが。「待機児童を減らす」などは既に政策としてメニューに組み込まれているので、と内閣官房が姑息な言い訳をしている。だとしても、出てくるアイディアがこのショボさ。とてもじゃないが、言い訳にはならない。今、働く女性にとっての最大の問題が何かが、分かってない。じゃ、言おうか。

 第一は、総合職で働く女性たちの勤務が過酷すぎる現実。簡単に言えば労働時間が長すぎる。1日あたり労働時間は、日本が男性375分、女性178分。フランスは男性173分、女性116分[OECDによる。「Balancing paid work, unpaid work and leisure」]。男性で倍、女性でも1・5倍も長い。ドイツはフランスより長いけどそれでも日本よりずっと短い。

 第二に、その総合職に就いている女性が妊娠や育児などをするということになると、その人たちを救うためにという名目で、「一時的軽減措置」というメニューが最近の企業で提案されている。企業名は言いませんが、実際にはこれもお為ごかし。想像すりゃすぐ分かること。

 例えば、一度、一般職に配置転換されて、子育てが一段落したら、また総合職に戻れる仕組み。あるいは、名前は総合職なんだけど「特定総合職」、つまり、転勤がないとか、労働時間も一定枠内、という具合に条件の限定された総合職に就いて、やがて元に戻る仕組み。

 ところが、これらは利用する女性総合職の割合が少ない。理由は簡単。出世街道から横道に逸れる、つまり、昇進競争に乗り遅れるからなんだ。せっかく総合職で頑張ってきたのに、昇進が遅くなって後輩たちに抜かれると思えば、利用したくないのも分かる。

 こういう風になるっていうことは、諸外国の例から既に分かっていることです。であれは、やるべきことは、実に簡単。今まで通り総合職を続けながらも、自由に子育てができるように、「総合職そのものの労働条件を改善する」。いちばんなのは労働時間を短くすることです。

 繰り返すと、総合職の女性の妊娠や子育てに関する支援をしたい場合、総合職のままで支援しなければ、公正な制度として意味がありません。ところが、女性のためと称しつつ、総合職の女性に、オプション的に「一次的軽減措置」と称して、出世街道から逸らせる。あまりにも愚昧です。

 一見よいように見え、そう書いている馬鹿マスコミもあるが、こうして、マタニティハラスメントに数えられる「妊娠を理由に女性を降格させる」のと同じ機能を、女性が自分で選んだという口実で調達できるわけ。少し考えれば分かる。これを問題にしろよ、内閣官房!

次のページ「女は男に近づけ」と「男は女に近づけ」を同時に言え

KEYWORDS:

宮台真司×柴田英里 「クソフェミへの退場勧告 ~性表現とジェンダーについて~」第2回 生配信

宮台真司×柴田英里 「クソフェミへの退場勧告 ~性表現とジェンダーについて~」第2回 オンライン生配信

[ 配信方法 ]
Zoomウェビナー。
(視聴にはZoomアカウントが必要です。配信前日に公開するPeatix内リンクより事前登録をお願いします)

[ 配信日時 ]
2022年3月31日 20時00分-22時00分
(1時間半対談、質問30分程度)
配信URLはイベント前日夜にPeatixにて公開します。
ウェビナーに名前、Zoomアカウントの登録が必要になります。時間に余裕を持ってご準備ください。

[ 視聴チケット ]
1,000円(税込)

[ お申し込み ]
https://kusofemi-event-20220331.peatix.com/view

◆KKベストセラーズ 宮台真司の好評既刊◆

※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトにジャンプします

CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

オススメ記事

宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

社会という荒野を生きる。 (ベスト新書)
社会という荒野を生きる。 (ベスト新書)
  • 宮台 真司
  • 2018.10.12
どうすれば愛しあえるの: 幸せな性愛のヒント
どうすれば愛しあえるの: 幸せな性愛のヒント
  • 真司, 宮台
  • 2017.10.27
大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112)
大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112)
  • 岡崎 勝
  • 2022.01.25