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【宮台真司】「すべての女性が輝く社会づくり」あれは一体何だったのか? 空洞化する社会の「問題の本質」

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第7回〉

■「女は男に近づけ」と「男は女に近づけ」を同時に言え

 

 二つ目として言いたいのは、さきほどのキャラ弁。日本では相変わらず、女性に対して「仕事をしてもいいよ、だけど家事もね」というのがすごく多いんですよ。ちなみに日本の男の家事への参加時間が非常に短いことは国際的な比較データとしてはっきり分かっています[日本男性の育休取得率は1・89%、スウェーデン78%、ノルウェー89%(2012年)。日本男性の家事参加は1時間7分、スウェーデン3時間21分、ノルウェー3時間12分(2014年)]。

 日本の男の家事参加は、せいぜいお風呂掃除とかゴミ出し。そんなことは、家事参加とは言えないよ。会社に行く途中にゴミを出せばいいだけだろ。そういうことじゃなく、洗濯をし、料理を作り、子育てに平等に関わる。これが非常に重要です。もちろん僕はやってます。

 でも、そのためには日本の労働法制や労働慣行が変わらなければダメ。男性の育児休暇の取得率が今の20倍以上になり、それがなおかつ不利益にならない制度が必要です。何らかの不利益を被った場合に、その会社にペナルティが課せられる制度がなきゃ、ダメなんですよね。

 その意味で、女性の問題というのは男性の問題でもあるんです、当然だけど。女性の妊娠・育児に関わる負担軽減の旗を振るなら、男性の仕事に関わる負担軽減の旗も、同時に振らなきゃいけないの。昔の性別分業から見て、女が男に近づくだけでなく、男も女に近づくこと。

 内閣官房は「男が女に近づけ」ってことが全く分かってない。どれだけ低レベルの役人だらけなんだ。それで結局「仕事をしてもいいよ、だけど家事もね」という風に女性が二重負担になっちゃうから、女性が働けないんじゃないか。あるいは子育てできなくなっちゃう。どっちかを選ぶしかなくなるんだよ。

 この現状を変える。これが大事なことなんです。それが、何がどう「キャラ弁」に関係あるのか、答えてみろよ、コラ、内閣官房‼ 総合職で働く女性を総合職のまま支援しろよ。事実上の自発的降格措置になるようなオプションを設けるのを、企業に許すんじゃねえよ。

 女性に「働け」と奨励するんだったら、対称的に、男性に「家事と育児をやれ」と徹底的に奨励しろよ。いったい何やってんだ。家事をやれと言っても「いや、やったことがないんで」みたいな言い訳をするクソ野郎だらけ。公教育を何とかするように提言しろよ、内閣官房!

 

■「経済回って社会回らず」の現実を何とかする

 

 女性はそういうクソ野郎と結婚するな!(笑)。これは大事なこと。そうすれば結婚したい男性も学ぶよ。短期的には少子化に拍車がかかろうが、かまわない。家事をやらないクソ野郎と、男に家事をやらせようとしないクソ政府こそ、長期的な少子化要因なんだからな。

 ちなみに僕は、朝食も作るし、弁当も作ります。幼稚園への送りは僕がやることが多い。そんなことは当たり前だ。えらくも何ともない。幼稚園の送りをして分かることがあります。いつも同じお父さんにお会いするんです。僕のところだと、いつもお会いするお父さんは5人ぐらいかな。

 会社の問題で幼稚園に送る時間に合わないのかもしれないけれど、子育てにきちんと参画するという意識があるお父さんが限られているのも確実にあると思う。男の多くが、子供の送りに配慮しない会社になんか就職しないぞ、って思えば、人材がとれないから、会社だって変わる。

 国際的には、むしろこれが常識なんです。そういう社会的な合意を作るためにも、「経済を回すために男をフランスの倍働かせる」ってことが異常なんだから、これをまず何とかしろよ、ということです。当然ですが、女性だけじゃない、男性だって長く働きすぎなんです。

 それだけ長く働かないともたない経済なの? そんなの、潰せよ! 何のために働くんだ。働くために働くなんて、意味がない。日本より格段に短い労働時間で、国際競争市場で戦ってる国民国家があるわけだろうが。倍働いてやっと保てる経済。それで日本が経済大国だ? 馬鹿か。

 日本人はフランス人より男は倍、女も1・5倍働いて、この程度。しかもこれはパートを含めて均しての話で、総合職の人はもっと働いている。さらに今後は残業代を払わない「ホワイトカラーエグゼンプション」も導入されるから、いよいよ厳しい労働条件になる可能性がある。

 こういうのは経済の問題じゃないんだ。社会の問題です。社会を生きる僕たちの問題です。社会が分厚くなければ、最終的には「経済回って、社会回らず」ということになるしかない。そうなると、経済がポシャった途端、社会の穴に落ちて、人がどんどん死ぬ。

 実際にそうなってるでしょ。それが1998年からの自殺者の急増なんです。97年はアジア通貨危機が波及し、山一証券や北海道拓殖銀行などが倒産した。いろんな会社が潰れた。経済が回らない状態になって、社会の穴に落ちた人たちが多数死んだ。構造は何も変わっていない。

 社会を回すために経済があるんじゃないの? 「経済回って社会回らず」なんて本末転倒じゃん。いったい何のために生きてるんだよ。経済が回らなくなったら自殺者が急増って何なの。いずれはまた経済が回らなくなる。経済を回すのを優先順位筆頭にして、どうするつもりだ。

 経済を回すために長時間労働して社会を空洞化させる。おかしいと思わないの? 女性の話に戻せば、公共交通機関でベビーカーを利用する女性を蔑む輩や、子育て夫婦なんかに俺の税金を使うなとホザく非モテ独身男が、珍しくない。いやはや本当に国辱もの。

 安倍晋三を応援してるヒマがあったら、こういう馬鹿に対してこそ愛国者は激昂しろよ。そして内閣官房は、こういう馬鹿をのさばらせない対策をとれ。最初に「内閣官房はヒマすぎ」と言ったが、頼むから、幾らヒマでも、こんなにトンマなことをぶち上げて外国にまで恥を晒すのはやめろ。

 

 

文:宮台真司

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宮台真司×柴田英里 「クソフェミへの退場勧告 ~性表現とジェンダーについて~」第2回 生配信

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[ 配信方法 ]
Zoomウェビナー。
(視聴にはZoomアカウントが必要です。配信前日に公開するPeatix内リンクより事前登録をお願いします)

[ 配信日時 ]
2022年3月31日 20時00分-22時00分
(1時間半対談、質問30分程度)
配信URLはイベント前日夜にPeatixにて公開します。
ウェビナーに名前、Zoomアカウントの登録が必要になります。時間に余裕を持ってご準備ください。

[ 視聴チケット ]
1,000円(税込)

[ お申し込み ]
https://kusofemi-event-20220331.peatix.com/view

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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