世界的大ブームの『イカゲーム』。政治や経済の失敗を自分の失敗だと思い込む洗脳された庶民の救いがたい健気さよ!【藤森かよこ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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世界的大ブームの『イカゲーム』。政治や経済の失敗を自分の失敗だと思い込む洗脳された庶民の救いがたい健気さよ!【藤森かよこ】

真実暴き時代に疲弊する人々を癒す大量殺人映画やドラマもいろいろ

『イカゲーム』以前の韓国ダークヒーロー・ドラマも大量殺人が見もの

 

 これらのダークヒーロー大量殺人アメリカ映画の影響を受けたのか、最近の韓国映画やドラマでは、ダークヒーローが大活躍して悪人を大量に処分する。

 「ダークヒーロー」とは、正義の味方みたいな勧善懲悪ヒーローではない。悪に対抗し悪を殲滅するために悪魔になるヒーローだ。代表的なのが、ドラマの『ヴィンチェンツオ』(2021)だ。

 母親に養護施設に預けられた少年はイタリア人の養子になり、ヴィンチェンツオと名付けられ、東洋人差別に遭いつつイタリアで育ち、才能と腕っぷしを買われてマフィアの顧問会計士になり、マフィアの資金洗浄に辣腕をふるう。ついには、韓国に帰り、人権派弁護士を殺害する政治家と癒着した不動産会社から雇われたマフィアを壊滅させる。

 もっとすごいのがドラマの『バッドガイズ 悪の都市』(2018)だ。これは同名の映画のスピンだ。最初から乱闘シーンばかりだ。あの乱闘シーンは、おそらく日本映画の『クローズZERO 』(2007)の影響を受けている。

 韓国ドラマの『バッドガイズ』は、女性刑事含めた大量の刑事や検察官や検察事務官までもが、血だらけで戦う。悪徳ブラック企業家と腐敗市長の癒着により、まっとうな市民生活が破壊されている某地方都市を正常化させるために、彼らや彼女は敢えて悪党bad guys になる。

 

■真実が暴かれる21世紀の庶民は疲弊している

 

 なぜ、このようなダークヒーローが残酷に大量殺人をする映画やドラマがアメリカや韓国ばかりでなく、日本でも人気を博しているのか?

 ヒントは、『ヴィンチェンツオ』の中で女性弁護士が言う台詞の中にある。「イタリアのマフィアはシシリーにいるだけ。でも韓国は、政府もメディアも警察も裁判所も刑務所も財閥も、みんなマフィア」という台詞の中に。

 上が上なんだから、法そのものが恣意的なあてにならないものなのだから、実質的には法治国家じゃないのだから、生き抜くためには下もマフィアになるしかないということだ。

 日本社会は、そこまでは腐っていないと思いたいかもしれないが、真実はわからない。

 ドラマや映画を製作する側も、それを消費する側も、2021年に生きる人間とならば、以下の8点を共通認識としている(と思う)。

 

(1)教科書に書いてあることは、真実のほんの一部。歴史のほんの表面。教育は、国民を奴隷にするために機能している洗脳機関。常識を疑え!

(2) 立派なスローガンや主義主張の背後には、残酷冷酷な意図が潜んでいる(ことが多いかもしれない)。地獄への道は善意で敷き詰められている。

(3)TVや映画を含み大手メディアは、それらの立派なスローガンや主義主張の残酷冷酷な意図を隠し、糖衣状にして流通伝搬させる装置。

(4) そういうメディアの策略を読むメディア・リテラシー(media literacy)を身につけることは非常に難しい。せいぜい中途半端な陰謀論者になり、脳と心が一層に混乱するだけだ。

(5)価値観の相対化が進み倫理も美意識も人それぞれになるのは、多様性を認めあう理想の世界に見えて、実際には人々は何を守ればいいのかわからなくなった。表面的にはポリコレぶりっこだが、実際は、無規範(anomy)が世界に蔓延しつつある。

(6)そういう世界の中で、人々は自己防衛のために他人を潜在的脅威とみなし、相互不信が人間関係の基調になる。人間は相互扶助のために集団を形成するはずが、集団形成そのものが難しくなりつつある。たとえば、個人が属する最小集団である家族そのものが個人にとって危険なものとなるように。古代からそうだったのかもしれないが、それが暴露されてきた。

(7)「お上」は庶民から収奪するだけの存在であり、特権的支配層は「お上」と結託して税金の中抜きが自由にできる。ならば、自分たちだって、脱税や課税回避地域への資産逃亡や非合法行為は自己防衛として許されるというアナーキーな心情が、多くの企業人や庶民の心に形成された。

(8)昔の庶民は、良きにつけ悪しきにつけ、メディアの発達もなく、factだろうがfakeだろうが、情報にアクセスする機会も手段もなく、特権層の腐敗も知らず、価値観の混乱や無規範に翻弄されることもなかった。しかし、現代に生きる庶民は、真実もゴミも大量に浴びるので疲弊する。

次のページ『イカゲーム』の大量死は、ダークヒーロー映画の悪人大量死とは違う

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課 程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。  

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