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国際社会や日本人はタリバン政権といかに対峙すべきか?【レシャード・カレッド×中田考】第3回

「タリバン復権の真実」と「今、アフガンで生きる民間人の実情」を知りたい。

2021年8月15日、首都カブールの国際空港を制圧し、アメリカの軍用機をバックに記者会見を開くタリバンの幹部。

■政治組織としての「タリバン」

 

レシャード:一方で、今の政権を担っている「タリバン」と、今説明した「学生」の意味での「タリバン」とでは大きな違いが出てきます。

 現在のタリバンも、1995年から6年の間は学生としての「タリバン」そのものが集まってきていたんです。

 当時のアフガニスタンの状況は恐ろしく、派閥に分かれて殺し合いがあったり、軍閥や部族のような人たちが、自分たちの利益のために一般市民を本当に迫害したりと、いろいろなことがありました。それに見かねた学生たちが「我々がなんとかしなきゃ」といって作った組織が、現在のタリバンの原形です。

 しかし学生だけでは何もできないので、一般市民が彼らを「よくやったぞ」「よく集まったぞ」「よくその気持ちになったぞ」ということで応援したり、一般市民が一緒に組織化されていって、それがタリバンの運動になったんです。

 私の本の中にも書きましたが、初期の学生たち(タリバン)は「想い」は持っていました。しかし政治の技術や知識、発想の部分では全く無知だったので、そこに入り込んだのが、いわゆる「アルカイダ」なんです。

 結局、国際社会は初期のタリバンを指導する立場、あるいは支援する立場を一切放棄した。しかし彼らは誰かの助けを必要としていた。そこにアルカイダが「お前らに政治を教えてやる」「政府のやり方を教えてやる」と入り込んだのです。

 本来ならそこで国際社会ができることがあった、というのが私の考えであり、想いです。

 今のタリバンは、その時代のタリバンとは違います。彼らは「タリバン」(学生たち)の名前の下に集まってはいますが、政治的な理由でまとまっている人たちなのです。

 これはあえて言わなければならないことですが、彼らは「宗教を守る、イスラム教を守る」という基本的なスタンスこそ変わっていませんが、皆が皆それだけの知識を持っているかというと、持っていない。無知な人が多く集まってしまっています。

 ほとんどの一般のタリバンの人たちは、ただ想いで集まっているだけで、知識も持っていなければ情報も持っていない。政府がどういう方向に動いているかを知らない人たちです。

 そういう人たちが、人を殺したり、ぶったり、鞭で打ったりと、いろいろなことをしてしまっているのは、全く無知なレベルの一般のタリバンまで教育が行き届いていないということだろうと思います。

 ですから、1996年から2001年までの過ちを繰り返さないためには、彼らがとんでもない方向に行く前に国際社会がきちっと彼らを指導したり、支援したり、ある意味では「縛り付けてあげる」ことも大事になります。「縛り」というのは、ただ規則で縛るのではなくて、何かの報酬の対価として「縛り」がついてくるものです。それはお互いに必要なことですし、今の世界の状況、情勢の中で当たり前のことでもあります。

 それによってタリバンも、方向性を決めてしっかり進むことができる。その方向というのは国際社会から認められた方向であって、それがアフガニスタンの一般市民を何らかの成功に導く方向であるというべきだろうと、私はそのような想いでおります。

 

■タリバンは見分けがつくのか?

 

中田:元々の意味の「タリバン」は、20年ぐらいはイスラムの勉強をしっかりする人間がターリブだったわけですよね。

 カンダハールでも、今「タリバン」と呼ばれている人がいっぱいいると思うんですけども、それは今言ったようなそもそもの意味での「勉強した人」なのか、あるいは今の政府としてのタリバンの職員なのかどうか。その辺は一般の人でも見ただけでも分かるものでしょうか? 我々外の人間から見ると、ターバンとかを巻いていると「あいつがタリバンなんだ」というふうに思ってしまいますが。

 

レシャード:見てすぐに分かるといった話ではないのですが、例えば、カンダハールのことだけを具体例に挙げると、一般的に、現地に住んでいたり今まで宗教的な勉強をしたりする人というのは顔見知りの人たちがほとんどです。だから、本来の「学生」の意味でのタリバンが誰か、この人は何を学んでいるかということは、地元の人間には分かるわけです。

 中田先生もご存じのように、モスクで働いている人や、そういう指導している人たち、あるいは「学生」としてのタリバンには、ほとんどの場合、毎日地域の人たちが集めて食事を持って行きます。だから顔見知りなんです。

 

中田:そうですね。

 

レシャード:お互いの生活が関係を持っている、一緒に暮らしているので、知らない人ではないのです。彼らはいろんな行事に参加します。お葬式や結婚式など、いろんな行事にムッラーだったり、ターリブがやって来ます。あるいは、ムッラーを呼ぶとターリブに必ず後ろに着いてきます。というのも、そのあとにご馳走が出るからです。

 日常的に行われている行事の中に、彼らが浸透している。だからみんな知っているし、ムッラーとかターリブは子供たちの顔を知ってるから、子供がちょっといたずらをすると、道ばたでも捕まえて「おいお前、そんなことはやるんじゃないぞ」とか、いじめをすると「こら、それはやるべきことじゃないぞ」と叱る。こういうことが日常的にできている社会のシステムなんです。

 それとは違い、政治組織としての「タリバン」というのは、ターバンをしているだけではなく武器を持っているとか、あるいは支配的な立場でいろんなことを言ったりする人々です。

 普段から接している学生としてのタリバンではなくて、いわゆる政治的な組織としてのタリバンとして、そこは皆区別していると思います。区別しないと危険ですから、今度は逆に生活の上では「何か間違ったことでもしたら大変だ」と警戒しているんじゃないかと思います。

 

中田:そうですね。特にカンダハールのような地方なら日常的に付き合っているから分かりやすいのですれけど、カブールのように広いと多分分からないでしょうから、それが問題になっているんでしょう。それはどうしても出てくる問題ですよね。

 

レシャード:そうですね。

 

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    中田 考

    なかた こう

    イスラーム法学者

    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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