■華やかでダイナミック まず目に訴えるバレエ

牧阿佐美バレヱ団「白鳥の湖」(撮影:鹿摩隆司)

 優雅であると同時に驚くほどダイナミックな踊り、美しい音楽や衣装・舞台装飾、そして演劇のようなストーリーも楽しめる――それがバレエだ。もし、まだそのステージを知らないのなら、それはじつに残念。ほかのどんなステージとも違った特別な楽しみを見逃しているのかもしれない。

 とはいえ、なにも知らないとついつい気後れしてしまうのも事実。そこで、初めてバレエでもとことん楽しめるよう、鑑賞のポイントをおさえておきたい。教えてくれるのは、日本のバレエの伝統を創ってきた牧阿佐美バレヱ団の代表でもある牧阿佐美さんだ。

牧阿佐美バレヱ団主宰/牧阿佐美さん
日本バレエ界草分けの一人・橘秋子の娘に生まれ、数多くの古典から創作バレエまでを踊り、振付家、教育者としても精力的に活動。

 

 バレエは、まず「目でみる音楽」「セリフのない舞台」として楽しんで欲しいと牧さん。ダンサーの踊りと同時に、華やかな衣装に目を奪われる古典バレエは演劇と同じように物語が進む。ところがそこに一切台詞はない。

「言葉の代わりに、オーケストラは音楽を、ダンサーたちは踊りや表情だけで、どんなストーリーなのか、どう展開しているのかを表現しているのです」

 それは裏を返せば、誰もが舞台に集中し、惹き込まれるということ。バレエが直接、観客の感性に語りかけるようになっている証拠だ。一度、そんな感覚を味わえば、どんどん面白さが増していく。

 

■楽しんで浸って味わう素敵な時間が流れる場

「バレエダンサーたちに惹かれるのは当然。でも、ほかにもみて欲しいところはたくさんあります」と牧さん。

 たとえばクラシックバレエでは衣装にも注目。動きやすく踊りやすいだけではなく、物語の設定年代によって異なるスタイルや着こなしが用意されている。主役を囲むダンサーたちの衣装が、舞台照明に素晴らしく映えるのに気づくこともあるだろう。それはあえて本物のシルクを使ったものだからかもしれない。そして定番の演目でも演出によって舞台の印象がガラッと変わる。そんないくつもの点に気が付くようになると、バレエは一段と楽しく思えてくる。

「楽しみ方はどの席に座るかによっても変わってきます」

 舞台全体がまんべんなく目に入るという点で、通常一番おすすめなのは1階席のちょっと下がった辺りだという。一方、お気に入りのダンサーの細かい動きまで追いかけたいなら、センターの前方がいいし、ステージから距離のある2階席は舞台が俯瞰できるだけでなくオーケストラピットの中の動きまで分かるから、ストーリー進行をはっきり理解するのには最適といえる。

 もちろん、古典のクラシックバレエ、モダンバレエ、コンテンポラリーと踊りのスタイルが変わると、見どころも違ってくる。

 非常におおざっぱに分けるとしたら、はっきりとした物語と華麗なバレエが楽しめるクラシック、意識してスタイルを排除して踊りそのものを表現するモダンバレエ、ダンサーの躍動する肉体的な美しさのコンテンポラリーといった傾向になるだろうか。

 

 そんな特別な空間を創りあげるバレエの魅力は、ステージだけに限らない。

「バレエを見に行くという時間そのものも、ぜひ楽しんで欲しいと思います」

 客席の照明が落ちて舞台が浮かび上がる空間自体、非日常の最たるものだ。さらに、期待にときめきながらちょっとお洒落した多くの観客が集まるエントランスのザワザワ感。そして幕間の休憩時間にロビーのビュッフェで過ごす時間も非日常感を盛り上げる。

「最近はステージ前にレクチャーがあったり、終演後にはバックステージ・ツアーがプログラムされていることも多くなっています」

 初心者といえども、バレエを楽しむ準備は至れり尽くせりというようになっているようだ。

バレエの楽しみは舞台だけではない。一歩足を踏み入れるだけでなぜかワクワクしてしまうのは、劇場やホールが特別な空間だから。開演前のエントランスの雰囲気や幕間のビュッフェでの一息も気分を盛り上げる。