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銃器大国ドイツが生んだ未来指向の名機関銃MG34

第二次大戦で恐れられた列強の機関銃④~戦場における大量殺戮兵器の原点となったマシンガンの真実~

■銃器大国ドイツが生んだ未来指向の名機関銃MG34

機関銃班の隊員が、戦友の肩を托架代わりに利用してMG34を射撃中の様子。この射撃方法は移動中の臨機射撃などに多用されたが、肩を貸すほうは耳元で起こる強烈な連射音で鼓膜を痛める心配があった。

 ドイツは第一次大戦に敗れ、ヴェルサイユ条約で軍備を厳しく制限された。潜水艦や戦車、軍用機と並んで機関銃の開発も禁じられたが、ドイツはスイスのゾロターン社を資本買収し、同社において機関銃の開発や生産のノウハウの維持と改良に努力した。
 ゾロターン社には、ドイツのラインメタル社の銃器設計技師ルイス・シュタンゲらが出向して、空冷式機関銃のMG30を開発。同銃が完成した1930年代に入ると、1935年3月16日の再軍備化宣言を待たずして、ヒトラーは水面下で急速な再軍備化を推し進めた。

 実はヴェルサイユ条約によるドイツに対する軍備の厳しい制限は、結果として旧式な兵器や戦術が一掃される事態を招いたが、それが全てを刷新するよい機会となった。
 このような流れの中で、ドイツ陸軍は、新しく開発する機関銃に多用途性を求めた。
 二脚架を装着して軽機関銃、安定した三脚架に載せて重機関銃、対空高射銃架に組み込んで対空機関銃、戦車や装甲車の銃架に固定して車載機関銃という、実に4パターンもの使い方に対応できるようにというものだ。まさに現代の汎用機関銃の概念の先取りともいうべき未来指向であり、これを第二次大戦前に発案したドイツ軍の先見性は卓越したものといえよう。

 加えて、このような考え方が生まれた背景には、ドイツ軍の主力小銃実包である7.92mmマウザー弾が強力で、機関銃弾としても十分な威力を備えていたことも大きく影響している。
 かくして軍部の要請を受けたマウザー社は、1932年から全力で新型機関銃の開発に着手。同社の銃器設計技師ハインリッヒ・フォルマーがMG30を元に改良を加え、1934年に制式化に漕ぎ着けたので、この新型機関銃には制式化年の下二桁を組み込んだ制式番号MG34が付与された。
 ベースとなったMG30も優れた機関銃だったが、それを改良したMG34はさらに優れた性能を示した。毎分発射速度は800~900発と速いが、その理由は、1回の掃射で可能な限り多くの弾丸をターゲットに送り込むという発想による。
 給弾方式は、ベルト給弾に加えてドラム・マガジンも利用できた。また、一部のパーツを交換すれば空軍の鞍型マガジンの使用も可能であった。
興味深いのは、トリガーを引く位置の違いで、連射と単射が使い分けられるように工夫されていたことだろう。トリガーの上半分の窪みに指をかけて引くと単射で、下半分の窪みに指をかけて引くと連射となるのだ。
 MG34は作動性にも優れた優秀な機関銃だったが、その生産には優れた加工技術が求められたため、量産には手間がかかるのが弱点であった。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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