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強力な「代替なき老兵」ブローニングM2重機関銃(アメリカ)

第二次大戦で恐れられた列強の機関銃③~戦場における大量殺戮兵器の原点となったマシンガンの真実~

■強力な「代替なき老兵」ブローニングM2重機関銃(アメリカ)

対空用3脚銃架に載せられたブローニングM2重機関銃を使用するアメリカ軍兵士。機関銃にもかかわらず弾丸の威力が大きいため、地上戦では軽装甲車やハーフトラック程度の装甲戦闘車両であれば、弱点を狙うことで装甲を貫徹し撃破可能だった。

 第一次大戦当時のフランスは、技術先進国であり軍事大国として君臨していた。そのため、当時は軍事的にまだ二流国だったアメリカから軍人の留学生を多数受け入れており、そのひとりにジョン・パーカー陸軍大佐がいた。1917年、フランス陸軍機関銃研修所に派遣されていた彼は、同所でテスト中だった11mm弾と、同弾を使用するホチキスの試作重機関銃に強い興味を示していた。

 フランス陸軍は戦訓により、航空機や気球、装甲車に対して、小銃弾を使用する機関銃では威力不足なことを経験していた。そこで、これらの手強い敵を撃破可能な大口径の機関銃と弾薬をテストしていたのだが、当然ながらアメリカ陸軍も同様の兵器を求めていた。威力が強く弾道の低伸性(まっすぐ進むこと)が良好な11mm弾の特性を高く評価したパーカーは、母国の陸軍兵器局宛てに詳細な報告を送った。
 同時期、在欧アメリカ軍総司令官ジョン“ブラックジャック”パーシング将軍もまた、戦場からのレポートに基づき、小銃弾より強力な弾薬を使用する機関銃の必要性を強く求める要望書を提出した。さすがに将軍であるパーシングの要望は効果的で、兵器局はコルト社に対し、パーカーが報告したフランス製11mm弾を使用する、M1917機関銃をベースにした試作銃の開発を命じた。

 ところがアメリカ陸軍内部では、ドイツ軍から鹵獲した13mm対戦車銃弾に比べて、フランス製11mm弾では威力不足ではないかとの意見が多く聞かれた。そこで兵器局は、ウインチェスター社に対して11mm弾より強力な弾薬の開発を要請。その結果、50口径(12.7mm)ブローニング弾が生み出された。一方、この弾薬を使用する銃は、銃器設計の天才といわれたジョン・ブローニングに新規の設計が依頼され、1918年9月に試作銃が完成した。
 だがこの試作銃は射撃時の振動が激しく、照準が難しかった。とはいえ戦時下だったので、兵器局は不満足ながら同銃を50口径重機関銃M1918として仮制式化したものの、実戦には間に合わなかった。

 戦後、このM1918を再検証して改修を加えたM1921を経て、さらにいっそうの改良が施されたモデルが1933年にM2重機関銃として制式化された。21世紀の今日まで連綿と続く「M2神話」の始まりである。
 堅牢で威力があり信頼性が高いM2は、軍用車両、艦艇、航空機、歩兵用と、あらゆる用途でその大威力を発揮した。例えばジープに装備すれば、単なる自動車に軽装甲車並みの火力が備わることになった。また、重量の点で航空機にも多数を装備しやすかったため、本銃の航空用モデルを6挺も8挺も搭載したF6FヘルキャットやP-47サンダーボルトといった単発戦闘機は、空戦だけでなく地上掃射にも大活躍した。

 一方、弾薬の50口径ブローニング弾は、今日ではアンチ・マティリアル・ライフルに採用され、遠距離狙撃でその威力を発揮している。
こうして、M2は今日もなお「代替なき老兵」「オールド・フィフティ」「ビッグ・フィフティ」「マ・デュース(「M」を「マ」、「2」を俗称の「デュース」に読み換えて)」などといった愛称で、アメリカ軍やその同盟国の軍隊で運用され続けている。まさに名銃といえよう。
 

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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