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故障知らずのヴィッカース機関銃(イギリス)

第二次大戦で恐れられた列強の機関銃②~戦場における大量殺戮兵器の原点となったマシンガンの真実~

■故障知らずのヴィッカース機関銃(イギリス)

ヴィッカース機関銃を使用するイギリスのコマンド。特殊部隊であるコマンドは一般部隊よりも武器の選択に融通がきいた。そのため重量があってかさばる本銃はあまり好まれなかったが、確実に作動する高い信頼性が求められる特定の任務には投入されることがままあった。

 有名なマキシム機関銃について、イギリス陸軍総司令官ガーネット・ウォルズレー元帥は1888年にその制式採用を決定した。陸軍は保守的傾向が強い組織だったが、彼はその陸軍でも革新的な発想ができる軍人として知られており、だからこそ陸軍総司令官に就任できたわけだが、早くから機関銃の真価を理解していた。
 実はイギリス陸軍は、軍による制式化以前にマキシム機関銃を購入して運用試験に供しており、そのときに優秀な成績を得ていたことも、円滑な制式化を可能としたのだった。時代背景的に見ると、当時は発射薬が黒色火薬から無煙火薬へと切り替わる時期であり、イギリス軍の制式軍用ライフル弾の303ブリティッシュ弾も、この発射薬の変更を行うことになっていた。

 そこでイギリス軍は、マキシム機関銃そのものではなく、その改良型の開発を試みた。ベースになるマキシム機関銃は性能、信頼性ともにきわめて優れていたが、それをさらに向上させる方向での改造が行われた。その結果、堅牢で作動性も良好、戦場での過酷な使用に十分に耐えられる試作銃が、ヴィッカース社で開発された。そこでイギリス軍は1912年11月、この機関銃をヴィッカース機関銃として制式採用し、量産を進めた。
 機関銃を、重機関銃とか軽機関銃といったように区分する方法には、口径の大小で分けるという考え方と、二脚、三脚といった銃架や携行手段の違いで分けるという考え方がある。この点、イギリス軍は後者であり、ヴィッカース機関銃にかんしては、ミディアムマシンガン(中型機関銃)という名称を与えている。

 なぜなら、イギリス陸軍は第一次世界大戦で、二脚を備えた軽量なルイス機関銃を機動性の高いライトマシンガン(軽機関銃)として運用。一方、三脚に架装したヴィッカース機関銃をエリア・ディフェンスの要に据えるという、運用方法の違いに基づくネーミングを採用していたからだ。どちらの機関銃も同じ303ブリティッシュ弾を使用しており、威力の面では大差がなかった。
原型となったマキシム機関銃同様、ヴィッカース機関銃は水冷式で、きわめて堅牢なため長時間連続射撃にも耐久できた。そのため、第一次、第二次の両大戦において、いくつもの戦場伝説を生んでいる。

 例えば、第一次大戦のフランス戦線で、10挺のヴィッカース機関銃が12時間にわたって約100万発を故障なしで撃ち続け、一定の幅の戦線を確保し続けたケース。太平洋戦争のマレー戦線で、ガンオイルが不足したため、ポマードとラードを練り混ぜたものを一定期間ごとに主要作動部に注油することで連続射撃を継続したケースなどがある。
 第二次大戦後も朝鮮戦争や初期の中東戦争で使用され、イギリス軍から完全に退役したのは1968年5月であった。だがヴィッカース機関銃を保有するその他の国々では、信頼性の高い本銃を現在も予備兵器として保管しているところも少なくない。まさに名銃と呼ぶに相応しい機関銃といえよう。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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