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アメリカの巨大工業力が生み出した「週刊空母」

第二次大戦で勇戦した「小さな巨人」護衛空母④~商船自身が「変身」した空から商船を守る急造軍艦~

■アメリカの巨大工業力が生み出した「週刊空母」

ワシントン州バンクーバーのカイザー造船所で建造が進むカサブランカ級護衛空母群。作業の進捗具合は向かって右に行くほど高く、右端のネームシップ(1番艦)であるカサブランカは竣工間近の状態に至っている。

 第二次大戦終結の時点で、約50もの船型が制定されていたアメリカ海事委員会認定標準船型のうち、C3-S-A1型商船がアメリカ初の量産型護衛空母ボーグ級の船体に採用されたことは、前回(「デモクラシーの兵器工場」アメリカと護衛空母:2020年01月15日公開)に記した。
 実はこのボーグ級護衛空母は、前半に建造された20隻と、後半に建造された24隻では細部の仕様が異なる。このため、特に後者は最初の1艦の艦名にちなんでボーグ級ではなくプリンス・ウィリアムズ級と細分されることもある。こうして両級合計で44隻が建造されたのだが、そのうちの実に33隻がイギリスに供与された。

 ちなみに、ボーグ級が20隻しか建造されなかったのは、C3-S-A1型商船が4隻不足したことが原因だった。そこでこの穴を埋めるため、アメリカ海事委員会認定標準船型T3型タンカーのうちの4隻が改造され、サンガモン級と命名された。タンカーは船体が大きくしかもフラットなので護衛空母には最適で、この4隻は実戦において高い評価を受けたが、戦時下におけるタンカーは本来の油送に加えて艦隊への給油など引く手あまただったため、さすがのアメリカも、T3型タンカーの護衛空母への改造はとりあえず4隻のみに留めた。
 ところで、実はここまでに紹介した各級のうち、プリンス・ウィリアムズ級の24隻だけが最初から空母として建造されたものであり、残りの護衛空母は、いずれも既存船からの改造または建造途中での転用であった。そこでボーグ級の改造作業が順調になった1942年、アメリカ海軍艦船局は、次期護衛空母のプラン策定に入った。

 ここで実業家のヘンリー・カイザーが登場する。ビジネス・センスに長けた彼は、戦前はダム工事など巨大インフラ建設事業に関与。第二次大戦が勃発すると、造船所を7か所も開設して、リバティー・シップ(戦時標準型輸送船)やLST(戦車揚陸艦)といった、戦時に量産が求められる艦船の建造を請け負った。
 実はこれらの艦船は、プレファブリケーション(プレハブ)工法と溶接工法によって素早く建造されていたが、カイザーは、自身のカイザー造船所で実績を上げているかようなな手法を用いて、半年間で30隻の護衛空母を建造できると提言。しかしこれを受けた艦船局は、同社に空母の設計や建造の実績がないことから、計画の実現は困難と判断し却下した。
 するとカイザーは、戦前の国策建設事業で知己を得ていたルーズヴェルト大統領の後ろ盾を得て、海軍側の指導を受けるという条件の下、計画を承認させてしまった。戦争中ならでは剛腕な手法である。

 さて、この計画では同型の護衛空母50隻の建造が予定された。全艦を1943年中に完成させるという慌ただしいもので、船型はP1型高速商船をベースに、操船性が向上する双軸推進や生産の簡易化に有効なトランサム・スターン(箱型艦尾)、さらに抗耐性向上のため、本来なら軍艦向けである主機のシフト配置などが盛り込まれ、便宜的にS4-S2-BB3型という海事委員会標準船型が与えられた。

 かくして本級は、1番艦にちなんでカサブランカ級と称されたが、時に生みの親の名を冠してカイザー級と呼ばれることもある。建造に際しては、カイザー社ならではのプレハブ工法と溶接工法が駆使されたが、初期には溶接個所に不具合が生じた例もあり、そのせいで「カイザー製空母は悪天候下では強度不足で壊れる」という流言飛語も生まれた。
 初期の数隻を建造して造船所側がコツを会得すると、実に1週間ごとに1隻が完成したので、一部では「週刊空母」とも言われたらしい。もっとも、ゼロの状態から完成まで100日前後の日数はかかっているのだが、それでもわずか100日である。

 こうして竣工した「プレハブ空母」は、同様の工法で建造された「プレハブ護衛駆逐艦」と組んで対潜掃討部隊を編成したり、航空機を輸送したり、護衛空母だけで戦隊を組んで上陸作戦時の航空支援に従事し、艦隊空母を敵艦隊との水上決戦や敵本国の空襲に専念させるといった運用がなされた。そして戦後も、一部の艦はヘリコプター空母や通信艦などに転用され活躍している。
 このような万能ぶりから、本級はジープ・キャリアーまたはカイザーズ・ジープといった渾名で呼ばれることもある。ジープといえば汎用小型4輪駆動車の名称として有名で、一部では同車の万能ぶりにちなんで本級に同じ渾名が与えられた言われることもある。だが実は、アメリカの人気漫画「ポパイ」に登場する、どこにでも行けて何でもできる架空の動物の名がJeepであり、陸軍の小型車はこれにちなんで命名された。そして本級の場合も、小型車のほうではなく、漫画のほうの元祖ジープにちなむ命名といわれる。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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