特別養護老人ホーム(以下、「特養」と表記)に入ってからの父の状態と、心揺れる母の言動を、私(=潮)の視点から記しておいた。母も日記をつけ始めた(母の日記は【ネーヤ・記】と表記)。私の視点、ときどき母の視点で綴る「まあちゃん介護雑記」。入所からの1年間を振り返ろうと思う。ちなみに、父と母はいつもの呼称、「まあちゃん」「ネーヤ」で書くことにする。娘の呼称は、「長女・地獄」「次女・潮(私)」で表記する。
 特養に入所9か月、ホームには馴染みながらも、久々のお泊まり帰宅をするお話。

イラスト:地獄カレー

 

まあちゃん「カラオケ」体操で激高

 

2018年12月2日(日)【ネーヤ・記】
 テレビを持ってタクシーで行く。
 夫(まあちゃん)は食堂に座っていたが、オムツもズボンもびっしょり濡れている。おそらく夜からオムツ交換していない様子。ズボンも取り換える。
 ひとり、元気なおばあさんが亡くなったという。
 夫も認識している様子。
 テレビはリモコンを渡しても、やたらとボタンを押しまくり、観たこともないチャンネルにしてしまう。興味なさそう。持ってきたのは失敗だったかもしれない。

2018年12月3日(月)
 ネーヤ(母)に電話したら入居者死去の話を聞き、ちょっと心配になった。
 その空気がまあちゃんに影響していないだろうか。と思ったら、食堂で斜めになって居眠りこいてた。
 2階のユニットでカラオケ体操があると誘われた。まあちゃんも行きたいと言う。カラオケは好きなのね。順番にマイクを回してくれるので歌わせてもらう。「憧れのハワイ航路」「有楽町で逢いましょう」「娘よ」など。
 ひとり美声のおばあさんがいた。しかしちょっとずつズレるのが、玉に瑕(きず)。また、認知症のおばあさんがまあちゃんにマイクを渡そうとするも、手を離さず。介護士さんが間に入るも、急にまあちゃんが激高。
「そっちが渡したんじゃないか! じゃあいいよ!」と激しく怒る。びっくりした。そんなことで激高しなくても。これが認知症と痛感した。
 帰る前にハガキを書かせる。文言は出にくいが、漢字はまだまだ覚えている様子。意外としっかりしている文面に。「また来るよ」と言うと「カレンダーに書いておいて。忘れちゃうから」とのこと。
 私の携帯番号も聞かれる。そのへんにある紙に書き留めていたが、これが私の番号であることを一瞬で忘れていた。

2018年12月7日(金)【ネーヤ・記】
 介護士さんが茶碗を持ってくる。夫が落として割ってしまったそう。
 年賀状をどうするか相談。「出す人だけ選んで」と言うと、「70枚必要だ」と言う。「あて名書きは私がやるので、中身は書いてね」と言うと、「全部書けるよ」と言うが……。

 夫…「お前の携帯で俺の携帯に電話して」
 私…「あんたの携帯は解約したから今はないよ」
 夫…「そんなはずない。とにかく電話してくれ」の一点張り。

 テレビのリモコンも使い方がめちゃくちゃで、幼児がおもちゃをいじっているような感じ。電源、何度言ってもわからないみたい。

【ネーヤの俳句】   
加湿器の 音を枕に 夫眠る

2018年12月8日(土)
 最近、まあちゃんは「食べながら寝てしまう傾眠(けいみん)が多い」という。「お茶碗や湯飲みを落として割ってしまうことが増えたので、今度からはプラスチックがいいと思います」とスタッフさん。途中で寝るって子供か! と思ったが、認知症の症状のひとつなのだろう。
 今日はホーム内を見学している家族が多い。スタッフさんが案内しているのを見て、まあちゃんが「誰か新しく入るんだな」と言う。なんとなくわかっているようだ。
 部屋に戻って、ちょっと外へ出ようか、と言ったら意外にOK。たぶん中にずっといて、温かいし、温度変化がないから、寝ちゃうんじゃないかしらとも思う。完全に防寒し、着ぶくれして車椅子で散歩。散歩中の犬に遭遇。まあちゃんも声かける。
 空を見上げるまあちゃん、案外気持ち良さげ。空気は冷たいけど、多分、久々の外。
 もうひとりの老人も心配なので、実家へ立ち寄る。夕飯をごちそうになる。帰り際、いつも私に忘れ物をしていないか確認するネーヤ。
「ほら、あれ持った? なんだっけ、サキソフォン」
 スマートフォンのことだった。

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