特別養護老人ホーム(以下、「特養」と表記)に入ってからの父の状態と、心揺れる母の言動は、私(=潮)の視点から記しておいた。母もホームへ行った日に連絡ノートをつけ始めた(母の日記は【ネーヤ・記】と表記)。 そこには、ちらちらと母の本音も垣間見えるが、たぶんよそいき。真の心情はどす黒いので門外不出だと思われる。私の視点、ときどき母の視点で綴る「まあちゃん介護雑記」。 全部ではないし、第1幕と少し重なる部分もあるが、入所からの1年間を振り返ろうと思う。ちなみに、父と母はいつもの呼称、「まあちゃん」「ネーヤ」で書くことにする。娘の呼称は、「長女・地獄」「次女・潮(私)」で表記する。

イラスト:地獄カレー

●2018年3月 まあちゃん、いよいよホームに入所

 

3月26日(月)
 入所日。私も午前中から実家で待機する。

 車で迎えにきてくれる予定なのだが、遅れている。まあちゃんも「いつになったら来るんだ? 普通こういうのは10分前に来るもんだ」などと繰り返す。どこへ行くかわかっているのか、いないのか。

 部屋に備えつけの家具はあるが、椅子もテーブルも必要ではないかとネーヤが悩んでいる。必要なモノは後で持って行けばいいと思ったのだが、タクシーを使わざるを得ない。ネーヤとしては、どうせなら一緒に運んでほしいと考えていたようだ。
 こういうときのネーヤは、やることで頭がいっぱいになり、テンパってしまう。あれもこれも、と同時に考える人なので、すぐに脳の領域がパンパンになる。
 結局、ネーヤが作った小型のテーブルを持っていくことに。木彫りを施した板の上にガラスを載せるだけの、おしゃれ重視で非実用的なテーブルだ。
「ところかまわずつかまってはすっ転ぶ人の部屋に、こんな不安定なテーブルを⁉」
 どうかしてるぜと思った。サイズ感はちょうどいいにしても、こんなグラグラしたテーブルを要介護4の人の部屋に。ネーヤの意図を推測してみた。
「殺風景な部屋になじみのある家具を置いて、お父さんには家にいる気分になってほしい」
 気持ちはわかるが、危ないし、いつか転倒して壊れるだろうなと思った。

 車椅子ごと収容できるワンボックスカーが迎えに来た。荷物を載せて、私たちも乗って、いざ出発。まあちゃんは少し緊張していたが、車に揺られてうつらうつらし始めた。

 隣に座るネーヤを見て、はっとした。
 ところどころ耳が茶色くなっている。ケガでもしたのかと思って凝視したら、白髪染めだった。入所準備で忙しかったのだろう。昨夜になって自分が白髪まみれと気づき、急遽、盛大にかつ雑に敢行したらしい。それだけでも、ここ数日間のネーヤの煩雑さが伝わってくる。ウエットティッシュで拭きとってやる。

 とりあえず、まあちゃんを収容し、部屋に荷物を納める。前のケアマネさんもわざわざ来てくれて、手伝ってくれた。看護師さんや栄養士さんと打ち合わせ。現在、体重がかなり重いので、1日1500kcalで様子をみることに。ケアマネージャーさんからケアプランについて説明を受ける。

 ポータブルトイレを置いてもらうこと、転倒しないようトイレの際は見守りが必要なこと、頭はハッキリしているときもあるので、できるだけ話しかけてほしいこと、ダジャレが好きなことなどを伝える。

 同じユニットにいる人の家族とも会った。夫を入れて1週間という女性だ。心配で毎日来てしまうと話していた。ひとり、入居しているおばあさんが大声でしゃべっていた。
「最近の子供は親の面倒をみないでこういう施設に放り込むんだからねぇ。いやになっちゃうねぇ。昔は、親の面倒は子供がみるって決まってたもんだけどねえ」
 そういうこと言うから放り込まれたんだよ……と心の中で思う。

次のページ 「こんなところにいたくない!」と父、怒り爆発!