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親の介護では無理をしない罪悪感を持たない!
でも「ザ・昭和の女」の母は罪悪感に悩まされ・・・

親の介護は「自宅介護」か「施設介護」か

自分の子育ての「恩返し」として老いた親を介護すべき–親孝行。そう思って、仕事を辞め、自分の生活を犠牲にしたら、親子「共倒れ」の危険は確実に高まる。「親の介護はプロに任せるべき!」と断言するコラムニスト吉田潮さんがものした『親の介護をしないとダメですか?』、老いた父への介護を通じて身をもって知った思いを紹介する。今回は、父を特養老人ホームに入れた後に「罪悪感」をもってしまう母親のお話。

●母の罪悪感、再び

 特養老人ホーム(以下「特養」と表記)へ入所して1か月。多床室のほうも続々と埋まり、施設内は一気に人口が増えた。呼吸する管を通しているため、びっくりするほど大きな濁音を発し続ける人もいれば、徘徊して施設内パトロールしている人もいる。玄関は中から外へ容易に出られない仕組みなのだが、業者が開けた隙を見て外へ脱走する人もいれば、大声で家族に対する愚痴を言いまくって過ごす人もいる。

 そんな折、母のあの病が再発した。「お父さんがかわいそう病」である。父は要介護4といっても、他の入居者に比べれば軽症に見える。特養にはかなり要介護度が進んだ入居者も多いので、比べてしまうと父が健康で問題がない普通の人に見えるのだろう。

「家に帰りたい」
「こんなところに閉じ込められた俺の気持ちがわかるか?」

 父は母に対してのみ、感情剥きだしになって愚痴をこぼすので、母の中で再び罪悪感が鎌首をもたげてきたのだ。

 母はほぼ毎日電話をかけてきて、「死を待つだけの施設なんて、お父さんにはまだ早いんじゃないかしら。ショートステイとデイサービスをうまく組み合わせれば、自宅でも大丈夫だと思うの」と話す。

 いやいやあの「戦慄のインフルエンザ家庭内感染」「地獄の16日間戦争」をもう忘れちゃったの? 母も認知症が始まったかと思うほど、しつこい。

 おまけに、施設のケアマネージャーにも相談したいと言う。多忙な人を捕まえて無意味な相談をしようなんざ愚の骨頂。気分は『サンデーモーニング』(TBS)の御意見番・ 張本勲 はりもといさお かつ !」だ。

「今のまあちゃん(父の愛称)は約3割がまともだけど、残りの7割は認知症患者なんだよ。認知症は今後どんどん進んで、まともなまあちゃんの割合は減るんだよ?」

 しかし、感情的になっている母にはまったく響かず。翌日、ケアマネさんにわざわざ時間をもらうことになった。ケアマネさんは穏やかな口調で説得してくれた。

「要介護度4で在宅介護は現実的にかなり厳しいです。ご家族にお伝えしていませんでしたが、夜中に排泄の失敗も多いです。今、特養を退所してしまうと、その後、何年も入所できなくなると思いますよ」

 すると、驚くほどあっけなく納得する母。私も同様の話をさんざんしたというのに! 舌打ち百万回である。

 母のような昭和初期生まれの世代の人は、医者だの弁護士だの教員だの、国家資格取得者になぜか弱い。センセイと呼ばれる人には敬意を払うのが当然と思っている。また、プロフェッショナル、専門職の人のひと言にもすぐなびく。

 ま、ケアマネさんのおかげで、母の病はすんなりというか、あっけなく収まったのだから、感謝の気持ちしかない。ケアマネさんも母の発作を理解してくれているようで、いやな顔ひとつせず協力してくれた。ホント、ありがとうございます。
『親の介護をしないとダメですか?』より構成)

KEYWORDS:

『親の介護をしないとダメですか?』
著者:吉田 潮

 

『週刊新潮』の「TVふうーん録」コラムニストで
フジテレビ「Live News it !」コメンテーターの
吉田 潮さんが多くの中高年が直面する「親の介護」問題。
自分の父が「認知症」となった体験をもとに、本音で書き下ろしました。
親を愛すればこそ「介護疲れ」につながる矛盾と真摯に向き合い、
著者は、一つの「答え」を導き出しました。

2018年の春、認知症の父を特養老人ホームに入れました。
ものすごくラッキーで、ものすごく速攻でした。
でもそこに至るまでの数年間、苦しんだのは老々介護の母でした。
「母を救いたい」と思ったのが、ホーム入居のきっかけでもありました。
私は在宅介護をしません。一切いたしません。
介護される父の姿をみて、母の姿をみて、心に決めていました。
実は、ホームヘルパー2級の資格も持っています。
十数年前に興味本位でとりました。 でも、これを生業にしようとは思いませんでしたし、今も思っていません。
やはり介護はプロに任せた方がいい。
老人ホームの問題は多々あるようですが、まだ入り口に立ったばかりなので、
実情はわかりません。そこはこれから長い付き合いになっていくのだろうな、と
思っています。
妻や子供が介護をするのが親孝行ってもんだろう、と言われても、私は違うと思います。
家族の介護には限界がある。
儒教の国の日本では、介護に関して、「罪悪感」が大きい。
介護と親孝行--いかにしてその罪悪感を減らすか、なくすかが課題だと思うのです。

親孝行か自己犠牲か、理想と現実の葛藤のドラマ。
老いた両親を持つ子供として介護とどう向き合い、どう取り組むべきなのか。
「優しさ」が「苦しさ」に変わる機微を捉えた本書が無理をせずに、
持続性ある介護のあるべき姿のヒントになると思います。
当代随一の本音コラムニストが、家族との関わり方について
独特の感性で認知症の父、母、姉と自分の家族のドラマを
笑いあり、涙あり、時に愛や憎しみもある実例として描きました。

【目次】
はじめに
第1部親はこうして突然老いていく
第2部母と子はだんだんこうして疲弊する
第3部父の介護で見えてきたもの
おわりに

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吉田 潮

よしだ うしお

コラムニスト

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。ライター兼絵描き。



法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』、『Live News it!』(ともにフジテレビ)のコメンテーターなどもたまに務める。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より『東京新聞』放送芸能欄のコラム「風向計」を連載中。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)、『くさらない イケメン図鑑』(河出書房新社)ほか多数。本書でも登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。



公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/



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