地震発生1時間内で窒息死された遺体の大半の肌にある異変「外傷性窒息」とは何か【阪神・淡路大震災25年目の真実❸】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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地震発生1時間内で窒息死された遺体の大半の肌にある異変「外傷性窒息」とは何か【阪神・淡路大震災25年目の真実❸】

あなたと愛する人の命を守るためのメッセージ③

◆「当たりどころ」次第で生死の運命が決まる「怖さ」

 西村教授は、外傷性窒息が起こるメカニズムには 特有の「怖さ」があると指摘する。それは、体の上に落ちてきたもの(柱、梁、家具など)が、足や腕の上に載りかかるか、それとも、胸や腹の上に載るか、まさに「当たりどころ」次第で生死の運命が決まるということだ。

【図2:外傷性窒息】
通常、横隔膜や胸が動くことで呼吸が行われるが、柱や梁が腹や胸に載ることでその動きが 止められ、呼吸ができなくなる。これを外傷性窒息という

「足に当たったら骨折で済むものでも、それが胸や腹に載るとたちまち呼吸ができなくなって、命を落とすことがあります。自分でコントロールできない偶然に左右されてしまう、それが外傷性窒息の恐ろしさです」
 

そして、西村教授が、阪神・淡路大震災で思い知ったことがあるという。想像以上に重くないものでも、外傷性窒息を引き起こし致命的になる危険があるということだ。
「若くて骨が丈夫な人はもちろん、お年寄りでも肋骨さえ折れていないのに窒息死している方がたくさんいたんです。骨が折れないような程度の圧迫でも息ができんようになるんや、ということを実感させられました」
 具体的にどれくらいの重さなら何分耐えて窒息死に至るのか。海外の動物実験や過去に起きた事故の実例などから、西村教授は、あくまで推測として個人差はあるが「自分の体重の2倍までの重さなら窒息はほとんど起きない。一方で、体重の5倍以上ならば10分程度で窒息死に至る」可能性が考えられると言う。
 一方で、窒息に至るまである程度の時間があるなら、その間に多くの人を助けられたのではという考え方は大都市の震災の実態を考えると現実的ではないと西村教授は強調する。
 「外傷性窒息で亡くなる場合には、最大でも1時間以内で何とか助け出せなかったら死んでしまうということになります。でも、その1時間以内でというのは現実問題、非常に難しいわけです。大震災では、外傷性窒息が広範囲で多数起こるわけですから、何千人もの人が家の下敷きになっている中で、同時に救い出すことは不可能だと考えるべきだと思い ます。結局、耐震補強など、事前の備えが、何より重要です」
『震度7 何が生死を分けたのか』より構成)

KEYWORDS:

震度7 何が生死を分けたのか
NHKスペシャル取材班

 

都市直下地震で人はどのように命は奪われるのか

第42回放送文化基金奨励賞受賞
大反響となった「NHKスペシャル」待望の書籍化!
本書では、新たに追加取材を行い、番組で放送できなかった内容までフォロー
来るべき都市直下地震を見すえ
今、命を守るために何をすべきなのか
その対策を、提示します。
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「本当にこんなものが残っていたとは……」(本文より)

阪神・淡路大震災 21年目に初めて明らかにされた
当日亡くなられた5036人の「死体検案書」のデータ。
死因、死亡時刻を詳細に記したデータが物語る「意外な」事実。
一人ひとりがどのように死に至ったのか。
「震災死」の実態をNHKの最新技術(データビジュアライゼーション)で
完全「可視化」(巻頭カラー口絵8P)
震災死の経過を「3つの時間帯」で検証した。
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【3つの時間帯とその「意外な事実」】
21年間「埋もれていた」5036人の死因、死亡時刻を詳細に記した検案書データ。
そこには地震発生から「3つの時間」経過とともに
犠牲者の実像、その「意外な事実」が明らかにされた。
1 地震発生直後:当日亡くなられた76%(=3842人死亡)の死因
なぜ、圧死(即死)はわずか8%だったのか!
2 地震発生1時間後以降:85人の命を奪った「謎の火災」の原因
なぜ、92件の火災が遅れて発生したのか!
3 地震発生5時間後以降:助けを待った477人が死亡した理由
なぜ、救助隊は交通渋滞に阻まれたのか!

本書はこの「3つの時間帯」で起こった意外な事実を科学的に検証。
浮き上がった「命を守るための課題」と「救えた命」の可能性を探るとともに
首都直下地震など、次の大地震に向けた対策を提示する。

【目次】

カラー口絵 序 章 5036人の死 そこには救えた命があった
第1章 命を奪う「窒息死」の真相 自身発生直後
第2章 ある大学生の死 繰り返される悲劇・進まない耐震化
コラム1 被害のないマンションでも死者が 現代への警告
第3章 時間差火災の脅威 地震発生から1時間後以降
第4章 データが解き明かす通電火災21年目の真実
第5章 通電火災に備えよ
コラム2 〝命の記録〟を見つめる 新たな分析手法と防災
第6章 渋滞に奪われた命 地震発生から5時間後以降
第7章 いまだ進まない根本的対策

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  • NHKスペシャル取材班
  • 2016.10.26