地震発生1時間内で窒息死された遺体の大半の肌にある異変「外傷性窒息」とは何か【阪神・淡路大震災25年目の真実❸】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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地震発生1時間内で窒息死された遺体の大半の肌にある異変「外傷性窒息」とは何か【阪神・淡路大震災25年目の真実❸】

あなたと愛する人の命を守るためのメッセージ③

 阪神・淡路大震災から25年。6434人の犠牲者を出したこの地震の記録と記憶を来たるべき「大都市直下大地震」の教訓として生かしたい。NHKスペシャル取材班がものした『震度7 何が生死を分けたのか〜埋もれたデータ21年目の真実〜』が本日、韓国版に続き、電子版が緊急配信される。今回は地震発生当日1時間以内の犠牲者2116人の死因となった「窒息死」についてお話しする。

何が生死を分けたのか。倒壊した家屋と耐震化された建物。神戸市灘区泉通周辺/写真提供:神戸市

最も多くの遺体をみた医師

 なぜ、地震でこれほど多くの人が「窒息」で命を絶たれるのか。私たちは、その謎を解 く貴重な手がかりを持つ人物に会うことができた。徳島大学医学部で、法医学を専門とする西村明儒(にしむら・あきよし)教授。阪神・淡路大震災が発生した当日に、神戸市で当直監察医を担当していたという経験を持つ。地震発生の直後から、各地の遺体安置所や病院を回り200人以上の遺体を検案した。
 西村教授は、窒息で亡くなった人をみるうち、ある共通の特徴に気づいたという。
「遺体をみると、骨も折れていないし、臓器損傷もない方がほとんどだったんです。震災当時は、法医学を専門にして10年目の頃で、あれほど一度に多くの遺体をみた災害は初めてでしたが、きれいな状態の遺体が多くて、それがかえって気の毒に感じられたのが強く印象に残っています」
  西村教授によると、窒息死の遺体には目立った損傷がほぼなかったという。研究室を訪ねた時、学術書に載った地震による窒息死の遺体の写真を見せてもらったが、確かに一見眠っている人のようにしか見えなかった。素人目だが負傷もない。ましてや、口や鼻に土や砂が詰まっていたり、塞がれたりしたような形跡も見当たらなかった。
  一方で、西村教授は、窒息で亡くなった人の大半には、衣服の下の肌にある異変があったと明かす。胴に白く変色している部分が胴に帯状にあったのだ。通常、遺体は、鬱血のため体全体が紫色になることが多いが、それだけに 白い変色は目立っていた。西村教授によると、その変色は何かに強く押された跡だという。(【図1】参照)

【図1:窒息死した方の大半は体の一部が「白く」変色】
窒息死した人の多くは、肋骨が折れることなく、臓器損傷も見られなかった。何かに押されたように「白く」変色していたのが特徴だった

「例えば、指でぎゅっとつまんで押さえると、そこが白くなるのと同じ原理です。窒息死の方の遺体をみると、特に胸や腹の上に、同じような白い変色の痕が残っていました」
 なぜ、それが窒息と結びつくのか。理由は、人の呼吸の仕組みと密接に関係していた。 
 通常、人は、肺の下にあって腹と胸の境にある横隔膜が動いたり、胸全体がふくらんだり縮んだりすることで、酸素を取り入れ呼吸している。しかし、その胸や腹の上に、重量物、例えば柱や梁なとが載れば、横隔膜や肺の動きが止められ呼吸ができなくなるというのだ。
“外傷性窒息(がいしょうせいちっそく)”と呼ばれるメカニズムです。鼻や口が塞がれる窒息を“気道閉塞性窒息”といいますが、それとは別に、胸や腹の上に圧迫が加われば、口や鼻が空いていても呼吸はできなくなるんです。 阪神・淡路大震災では、この外傷性窒息が多くの人の命を奪う原因となりました」

次のページ「当たりどころ」次第で生死の運命が決まる「怖さ」

KEYWORDS:

震度7 何が生死を分けたのか
NHKスペシャル取材班

 

都市直下地震で人はどのように命は奪われるのか

第42回放送文化基金奨励賞受賞
大反響となった「NHKスペシャル」待望の書籍化!
本書では、新たに追加取材を行い、番組で放送できなかった内容までフォロー
来るべき都市直下地震を見すえ
今、命を守るために何をすべきなのか
その対策を、提示します。
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「本当にこんなものが残っていたとは……」(本文より)

阪神・淡路大震災 21年目に初めて明らかにされた
当日亡くなられた5036人の「死体検案書」のデータ。
死因、死亡時刻を詳細に記したデータが物語る「意外な」事実。
一人ひとりがどのように死に至ったのか。
「震災死」の実態をNHKの最新技術(データビジュアライゼーション)で
完全「可視化」(巻頭カラー口絵8P)
震災死の経過を「3つの時間帯」で検証した。
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【3つの時間帯とその「意外な事実」】
21年間「埋もれていた」5036人の死因、死亡時刻を詳細に記した検案書データ。
そこには地震発生から「3つの時間」経過とともに
犠牲者の実像、その「意外な事実」が明らかにされた。
1 地震発生直後:当日亡くなられた76%(=3842人死亡)の死因
なぜ、圧死(即死)はわずか8%だったのか!
2 地震発生1時間後以降:85人の命を奪った「謎の火災」の原因
なぜ、92件の火災が遅れて発生したのか!
3 地震発生5時間後以降:助けを待った477人が死亡した理由
なぜ、救助隊は交通渋滞に阻まれたのか!

本書はこの「3つの時間帯」で起こった意外な事実を科学的に検証。
浮き上がった「命を守るための課題」と「救えた命」の可能性を探るとともに
首都直下地震など、次の大地震に向けた対策を提示する。

【目次】

カラー口絵 序 章 5036人の死 そこには救えた命があった
第1章 命を奪う「窒息死」の真相 自身発生直後
第2章 ある大学生の死 繰り返される悲劇・進まない耐震化
コラム1 被害のないマンションでも死者が 現代への警告
第3章 時間差火災の脅威 地震発生から1時間後以降
第4章 データが解き明かす通電火災21年目の真実
第5章 通電火災に備えよ
コラム2 〝命の記録〟を見つめる 新たな分析手法と防災
第6章 渋滞に奪われた命 地震発生から5時間後以降
第7章 いまだ進まない根本的対策

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震度7 何が生死を分けたのか
  • NHKスペシャル取材班
  • 2016.10.26