米国がイランのソレイマニ司令官を無人機で殺害した報復として、イランは8日にイラク国内の米軍基地をミサイル攻撃を行った。これにより両国間の緊張が一気に高まることとなったが、米国側に死者が出なかったことで、これを「落としどころ」とし、目に見える形での緊張は収束するのではないかという見方がある。
 だが両国間の争いは、ことサイバー空間に関してはこれからが本番だ。弊社『サイバー戦争の今』を上梓した国際ジャーナリストの山田敏弘氏に、これまでの米国・イランのサイバー戦争の経緯と今後の行く末を解説してもらった。(サイバー戦争の今著 山田 敏弘 より)

 ■イランのサイバー攻撃は米国の重要インフラをストップさせるだけの力がある

 2020年1月3日、米軍はドローンによる攻撃で、イラン革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官をイラクで殺害した。

 ソレイマニはイランで有力な人物として最高指導者アリ・ハメネイ師からも信頼され、将来の大統領候補とまで目されていた人物だ。そんな重要人物を殺害したのだから、イランが憤慨しないはずがない。ハメネイ師も米国に対する報復を宣言した。

 ただイランが報復をすると言っても、その手段は限られている。中東で展開する米軍関係施設を攻撃したり、米国または米同盟国の要人を暗殺するか、周辺の親米国へのテロ行為や破壊工作ーー。そういった実害以上に、反撃したと言うPR効果を狙った攻撃が予想される。

 そもそもイランには米国とまともに戦える能力がない。しかも国内は米国による経済制裁で疲弊し、軍事力も劣るため、非対称的な戦いしかできないのが現実だ。

 そこで注目されているのが、イランによるサイバー攻撃である。拙著『サイバー攻撃の今』でもイランのサイバー部隊について詳述しているが、2020年年始から緊張感が高まっているイラン情勢ではどんな「サイバー戦争」が行われると考えられるだろうか。

 ソレイマニを殺害した直後、米国国土安全保障省(DHS)は直ちにこんな警告を国民に対して発表した。

 

「これまでイランは、米国内を標的にさまざまな画策をしてきたが、米国内のインフラを狙ってスカウト活動や攻撃を狙ったり、米国の幅広いターゲットを狙ってサイバー攻撃も行ってきた」

「イランは強力なサイバー戦略を持っており、米国に対してもサイバー攻撃を仕掛ける能力を維持している。控えめに述べても、イランのサイバー攻撃は米国内の重要インフラを一時的に止めてしまうような攻撃を実施できるレベルにある」

 

 確かにイランはこれまで、米国に対して、いろいろなサイバー攻撃を仕掛けてきた。

 有名なケースでは、2012年、イランのサイバー部隊は、ライバルであるイスラム教スンニ派の国、サウジアラビアの国営石油企業「サウジアラムコ」に大規模なサイバー攻撃を行い、社内の4分の3のに及ぶパソコンのデータを消去した。同社は復旧に2週間を要し、甚大な損失を被った。

 サウジアラムコといえば、2019年9月にイランによるものと思われるドローン攻撃を受け、大打撃を受けている。サウジは石油生産量で世界の12.7%以上を占めるが、ドローンによる攻撃はその生産量を半減させるなど、この手の破壊行為がもたらす被害の大きさを見せつけた。

 イランはさらに、2017年にもサウジの別の石油会社をサイバー攻撃して制御システムを不正にコントロールして爆破させようとしている。爆破は最終的には阻止されたが、この攻撃では背後でロシアが協力したとの報道も出ている。

 イランによるサイバー攻撃は世界の石油市場を混乱させ、十分に世界的な影響を及ぼす可能性があるのだ。石油価格や株価など世界経済をも揺るがす。見方によれば、米国と一戦交えるよりも世界に与えるネガティブな影響は大きいかもしれない。

 もっと時間を遡っても、イランは米ウォール街の企業に対して激しいサイバー攻撃を続けてきた実績があるし、2014年にはラスベガスにあるユダヤ系不動産開発業者が経営するホテル、ラスベガス・サンズをサイバー攻撃してデータを抹消するなどの騒動も起こしている。2002年に米政府がイランの銀行への経済制裁を発表した際は、多くの米銀行がイランによるDDos攻撃の被害に遭ったこともあったし、実際に2013年にはイランのサイバー攻撃でいくつもの銀行がオフラインになった。また米国内にある電力を供給するダムなどのインフラのシステムにも、ハッキングで侵入していたことが判明している。