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【自宅での授業参加は出席扱いになりますか?】どうなる『学びかた改革』? 〜オンライン授業の今後〜

第94回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■自治体は、状況を把握して正しい判断を

 緊急事態宣言の発令を直前にした4月19日に、「小中学校では原則オンライン授業」と独断で発表したことで物議を醸したのが、大阪市の松井一郎市長だった。その松井市長が5月12日の会見で、「オンライン授業が授業時数としては計算されないと国の基準になっていると思うが、授業時数として計算すべきか」と報道陣に質問されている。

 これに対して松井市長は、次のように答えている。
「なんでそれが対面授業と同じように、カリキュラムの日数に入れ込まれないのかというのは、1回大臣(萩生田光一文科相)に直接聞きます。入れてくれって言いますよ」

 文科省がオンライン授業を授業時数としてカウントしない方針であることを、どうも松井市長は知らなかったようだ。松井市長の発言で、文科省が方針を変えたという事実もない。
 もっとも大阪市の場合、そもそも原則オンライン授業を実施できる環境が整っていないために、オンライン授業は市長の掛け声だけに終わってしまった。オンライン授業を授業時数としてカウントするかどうかの議論にまで発展しようもなかったわけだ。

 しかし新学期がスタートして、全国で休校や学級閉鎖が続くなか、さらには分散登校などの対応を決める学校が増えているなか、「オンライン授業を授業時数に含めるかどうか」が大きな関心事になってきている。
 福岡市教育委員会(福岡市教委)は昨年12月3日の段階で、新型コロナで登校が不安となり自宅からオンライン授業を受けた児童・生徒について、「出席扱い」とする方針を決めている。オンライン授業を授業時数としてカウントすることを認めたわけだ。

 それもあってか、福岡市の市立小中学校で本格的に授業が始まった8月30日の段階で、新型コロナ感染が不安で登校をためらいオンライン授業を申し込んだ児童・生徒が約2,200人にのぼったという。これは、過去最高の人数だそうだ。
 授業時数にカウントされるというので、安心してオンライン授業を選択したと思われる。そうでなければ、不安を抱えながらの登校を選択せざるをえない状況に追い込まれる児童・生徒が少なからずいたはずである。

 クラスの半数は教室で対面授業、残り半数は家庭でオンライン授業という分散登校を選択している関東のある中学の校長は、「半数がリアルで授業を受けている状況なので、オンライン授業も授業時数にカウントされると判断しました」と言う。
 不登校児童生徒が自宅でICT等を活用した学習活動を行うとき、校長の適切な判断で出席扱いにできるという指針を文科省は示している。ここから考えてみると、半数は教室で授業を受けているのだから、残り半数を「不登校」とみなしてオンラインで授業を受けているとすれば、校長判断で授業時数と認めることは可能であるとの解釈も成り立ちそうだ。

 ただ決まった方針があるわけではなく、冒頭の9月1日付『朝日新聞デジタル』も「自治体によって判断が異なっている」としているように、自治体ごとの対応が違っていたりする
 これは裏を返せば、自治体の判断で柔軟な対応ができるということだ。全国的には1人1台端末の整備ができていないところも少数ではあるが存在するし、オンライン授業の準備状況については、それこそマチマチである。

 そんな状況で、文科省が全国統一的な方針を示すのは無理だろう。新型コロナ禍のような危機状況では柔軟な対応が重要であり、それには、地域の状況を把握しているはずの自治体が独自に判断して独自に行動することが必要だ。文科省がやらなければならないことは、自治体の独自判断を尊重することでしかない。

 とはいえ、大阪市の松井市長のように、学校現場の状況を把握していないばかりか、教育委員会にすら相談せずに独断で決めてしまっては、混乱を招くだけだ。
 地域の状況を正確に把握し、柔軟な対応のできる自治体が増えることが、新型コロナ禍では求められている。

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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