自分の言い分を通すために、「オリンピック・パラリンピック」を利用する人たち【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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自分の言い分を通すために、「オリンピック・パラリンピック」を利用する人たち【仲正昌樹】

菅義偉首相

 

 どうしてオリ・パラにだけ拘るのか。その理由は二つ考えられる。とにかく政府を罵倒したいということと、排外主義である。恐らく、この二つが結合しているのだろう。「菅を下げるために、不快な外人どもをネタにしてやれ!」、という感じで。

 ③「オリ・パラ対策のためにコロナ感染者に対するケアが手薄になる」も同じように、根拠がはっきりしない。オリ・パラのために配置される医療従事者が、普段、重症のコロナ患者の治療に当たっている人たちであれば、彼らを引き抜いたことが医療ひっ迫の原因になっていると言えるが、そういう事実は今のところ指摘されていない。そもそも医療従事者の全てがコロナの治療に専従しているわけではない。だからこそ、コロナ治療に当たっている医療従事者が少ないことが問題になっており、現在感染症法上の一類以上の扱いになっているコロナの五類相当への変更や、一般の病院がコロナを受け入れるよう政府が強権を発動することなどが提案されているのである。また、コロナとは関係なく、オリ・パラのために働く予定になっていた医療従事者もかなりいたはずである。どのコロナ専門病院から何人動員されたのか、他分野の人を動員したことによってコロナ治療に影響が出たというのなら、それはどういう影響か、具体的に論じるべきである。

 実際にどうやって運用しているのかは確かに気になるところなので、疑問を呈し、政府や組織委員会に問い正すこと自体は正当であろう。しかし、具体的な関連を示さないまま、何となくの印象だけで、「オリ・パラに必要な人材が取られて、医療崩壊が起こった」と断言するのであれば、やはり「菅を下げるために、不快な外人どもをネタにしてやれ!」、という安易な発想に基づいていると考えざるを得ない。

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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  • 2020.08.25