◆韓国アイドルは〝見られる〟資格がある人

 一方の韓国では、公共の電波を通じて歌やダンスを披露するからには、姿もスタイルも、水準をクリアしていなければ認められない世界である。

 日本の約3分の1の人口が日本よりはるかに高い密度で暮らす韓国では、容姿の評価基準が流行によって変化し画一化される。

 日本では売り出し方にもよるが、どこにでもいる日焼けした「褐色のココナッツ娘」や、太り気味でも「ぽっちゃり形のもち肌娘」などとそれ自体がチャームポイントとなり、一定のファンも付く。

 だが韓国では、規格品のようなスタイルのアイドルが、見られることができる資格がある人である。

 男性アイドルなら、高身長でなければ競争に参加する資格すら認められない。つまり、韓国のアイドルの基準では、一般人には手が届かない存在であることが求められるのである。

 それだけに、アイドルを目指す若者や、それを生み出していく芸能事務所にとって、クリアしなければならないハードルは高い。

 実際に韓国のアイドルに会って話をしたり、仕事で付き合うと、よく分かるのがアイドルたちのマナーの良さである。話すときは相手の目をまっすぐに見ながら話すし、その内容も率直そのもので誠実さを感じさせる話し方をする。

 マナーもよく、目上の者に対しては謙虚さをにじませながら、気配りも怠りない。言ってみれば、マナーをよくわきまえた美しさを持った若者たちという印象だ。

 日本のアイドルと比べると随分と大人びており、洗練されている。歌やダンスだけではなく、人間としてのマナーも訓練されているのだろう。

 現在の韓国で、このような人材の発掘および養成を支えているのが、インキュベーティング・システムと呼ばれているものだ。

 インキュべート(incubate)とは「卵を抱く」という意味で、鳥が卵を産んで温め、雛にかえして成長させていく象徴的表現である。素質のある若者を早期に発見し、囲い込んで長期間のトレーニングと教育をする育成システムだ。

 1990年代後半から2000年代にかけて、この方式が大きな成果をあげるようになり、韓国の芸能業界全体に広まって行った。

 その訓練内容について知るために、ある大手芸能事務所の訓練の様子を見学させてもらったことがある。

 その時に聞いた訓練生たちの話によると、通常起床は朝7時。まず最初にジムで筋トレをし、10時に先生が来て歌やダンスのレッスンがあり、その合間に自主練習。午後もひたすらレッスンで、深夜12時過ぎに宿舎へ帰る。これが毎日続き、お盆と旧正月の計4日が休みということだった。

 トレーニングは歌やダンスだけではない。話し方やマナーもメニューに入っている。さらには英語、中国語、日本語など、海外戦略に応じて外国語を学ばせるのだ。

 語学のほかに人格形成の一環として、事務所周辺の掃除をやらせたり、性教育を行う事務所もあるという。

 アイドル訓練生の育成費用については諸説あり、私も関係者に話を振ってみたが、その実態はなかなか話してはくれず、実態は良く分かってない。

 だが、報道その他の資料によると、1人当たりの育成費用は年間3500万〜4000万ウォン(約350万円〜約400万円)とされている。事務所がこれだけの費用をかけて育成している。

 タレント候補は増加の一途だという。韓国には地上波テレビで、数多くのオーディション番組が放映されているが、SMエンタテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメントという、韓国の大手プロダクション共催で行ったテレビプログラム「サバイバルオーディションK–POPスター」には、1日で1万人の受験者がやって来たという。

 各事務所が随時行っているオーディションにも、多くの志望者が受験し、最大手のSMエンタテインメントのオーディションには、年間にすると30万人以上が応募してくるそうだ。

 歌手部門全体での合格倍率は250倍とされており、各事務所が何人の研修生を抱えているのかは非公開である。

 かつての日本と同じく、韓国でも役者は「河原乞食」と言われ、芸能人は蔑さげすまれていたが、いまや「芸能人」という職業がコリアンドリームを支える職業の一つとして絶大な人気を誇る時代となってきているようだ。

 このように、豊富に供給される人材という材料を、厳選して目的別に組み立て、ビジネスになる商品として仕立て上げていくシステムは大きな成功を収めたが、素材が血の通った人間であるところが大問題を生んでいる。

 昨今大問題となった、K–POPグループBIGBANGなどがからむ有名タレントの麻薬、売春斡旋事件などの事件は、その歪が生んだものだといえるだろう。