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【曇る大学入試の未来】インセンティブの獲得と大学の自主性は共存できるのか

第87回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-


大学入試をめぐり、インセンティブについての議論が活発になっているきている。問題はそれ自体が目的となり、学校の主体性が揺らぐことである。文科省が主宰する検討会議の提言を見ながらそのメリットやリスクについて考えたい。


■大学へのインセンティブ付与の目的は…

 ビジネスの世界においては金銭的なインセンティブは一般的だが、はたして教育の世界でも必要なのだろうか。そんなことを改めて考えさせられてしまうのが、文科省の「大学入試のあり方に関する検討会議」(以下、検討会議)の提言である。
「インセンティブ」という言葉は、やる気を起こさせるような外部からの刺激という意味だそうだ。この外部からの刺激として、ビジネスの世界では報奨金などが使われることが多い。「売上を伸ばせば基本給に上乗せする」といった具合だ。このインセンティブで「やる気」にさせ、より積極的に働かせようというわけである。それで、熾烈な競争になることも珍しくない。

 検討会議は7月8日、計28回の審議の結果をもとに提言をとりまとめ、萩生田光一文科相に提出した。それが大きな話題になったのは、大学入学共通テストで英語民間試験の活用と国語・数学の記述式問題の導入を「困難」と結論づけたことだった。
 英語4技能(聞く、話す、書く、読む)の評価と、考えさせる問題の導入は大学入試改革の「目玉」として打ち出されたものだった。
 英語4技能も考えさせることも、新学習指導要領で文科省が重視していることである。それを大学入試に反映させる狙いが、英語民間試験や記述式問題にはあった。

 しかし検討会議は、民間が実施する試験では実施回数や受験料の面で公平性の確保が困難との結論をだした。記述式問題にしても、採点で厳密性を確保できないとして見送りを決めた。
 大学入学共通テストが英語4技能や記述式問題で評価できない、という問題の指摘でもある。その意味では今後、学習指導要領と大学入学共通テストの関係も問題にされるかもしれない。

 だからといって英語4技能と記述式問題への取り組みを「完全」に中止すべきだ、と検討会議が結論づけたわけではない。検討会議は、総合的な英語力評価や記述式問題の出題は重要だとしているのだ。しかし、大学入学共通テストでは無理というわけだ。

 では、どうするのか。検討会議は、大学が個別に行う入学試験で対応するように求めている。大学入学共通テストでは困難と結論づけたものを、各大学には実施を求めたことになる。
 それは簡単なことではない。だからこそ、検討会議は積極的に取り組む大学についてはインセンティブを与えるということを提言している。実行する大学については、運営費交付金や私学助成を増やす方向を考えているらしい。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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