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【曇る大学入試の未来】インセンティブの獲得と大学の自主性は共存できるのか

第87回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■大学の自主性とインセンティブの天秤

 しかし、予算が増えることを文科省は喜ばないだろうし、なにより財務省が首を縦に振るわけがない。
 そうなると、増やした分を減らすことも検討されていくに違いない。入学試験で英語4技能や記述式問題への取り組みに消極的とみなされた大学は、運営費交付や私学助成を減らされる可能性も否定できない。

 かつてビジネス界で「能力給」が注目されたことがあった。仕事の実績によって、給与に差をつける。インセンティブによって仕事の実績を上げさせよう、というものだ。
 だからといって、企業が給与予算枠を引き上げたわけではない。実績の上がった社員の給与は増やすが、上がらなかった社員の給与は引き下げることによって、全体の枠は変わらないようにしていた。企業側としては負担を増やすことなく、効率的な働かせ方をするのが狙いだった。

 それと同じことが、検討会議の提案するインセンティブでも起きる可能性は少なくない。インセンティブを受けられる大学と、そうでない大学には差が生まれる。大学間格差を広げることにもなりかねない。

 各大学は、英語4技能や記述式問題に積極的に取り組まざるをえなくなる。そうなれば高校、中学や小学校でも英語4技能や記述式を重視した指導を強めざるをえなくなるから、文科省の思惑どおりになる。ただ、どこも積極的になれば、どこにインセンティブを与えるかなど、文科省にしてみれば頭の痛い問題が出てくるだろう。
 なにより、大学の姿勢や入試の出題内容がインセンティブに左右されていいものか、という問題がある。

 英語4技能や記述式を否定する声は多くはないと思うが、それはインセンティブによってリードされるものなのだろうか。これらを必要として大学が入学試験に導入するのなら理解できなくもないが、文科省に言われたから、インセンティブが欲しいからとの理由で導入されるなら疑問がある。大学の自主性は、いったい、どこに行ってしまうのか。
 そして、インセンティブによって競わせることが、はたして教育の場にふさわしいものなのだろうか。
 大学だけでなく、進学(入試)指導に積極的で成果をあげた高校に特別の認定を与える制度など、様々な形でのインセンティブによって学校の方向性が決まる傾向が強まりつつある。それを、さらに強めていくことにつながる可能性もある。

 大学入学共通テストで困難なものを各大学の入試で実施することは可能なのか、インセンティブで無理やりな実施にならないのか、そもそも自主性は必要とされなくなっているのか、検討会議の提案はさまざまな疑問を投げかけている。

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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