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【5歳児向けの共通教育プログラム】現代の学校教育は子どもと教員を幸せにできるのか

第86回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■未就学児に没個性的な教育は必要か

 さらに工場化を進めることになると思われる施策が、文科省が計画しているという「5歳児向けの共通教育プログラム」である。『読売新聞』(7月6日付)は、「幼稚園や保育園、認定こども園で生活や学習の基盤となる力を養い、小学校入学後の学びにつなげる」と報じている。

 簡単に言えば、小学校での学習についていける力を小学校入学前につけさせる、ということだ。小学校での「商品づくり」を、より効率的に行えるようにするためのプログラムである。

 現在の小中学校における指導は、文科省の定めた学習指導要領によって画一化されており、それによる「没個性」が強く懸念されてもいる。そうした指導要綱に馴染ませるために、小学校入学前の子どもたちにも、共通教育プログラムという画一化した指導をしてこうというわけだ。先述の『読売新聞』の記事は、共通教育プログラムについて次のように説明している。

「プログラムでは、生活や学習の基盤となる『言葉』、『情報活用』」、『探究心』に関する能力や態度の育成を目指す。例えば『言葉』では、絵本の読み聞かせやゲームなどで語彙を豊かにし、『情報活用』は遊びながらタブレット端末などに触れる。『探究心』では、砂場で土に水をかけるとなぜ固まりやすいのかなど、身の回りの疑問の話し合いなどが考えられる。活動を通じ、小学校での学習に結びつくような好奇心や粘り強さ、協調性などを養う」

 これを読み、首を傾げる幼稚園・保育園関係者は少なくないだろう。絵本の読み聞かせやゲーム、身の回りの疑問の話し合いといったことは、現在も実践されていることばかりだからだ。それができていないかのように扱われるのは、幼稚園・保育園、そして認定こども園の関係者にしてみれば心外なはずだ。

 現在は各園の独自の考えで独自に行っていることを、統一したいという狙いしか見えてこない。しかし、先にも述べた通り、画一化された商品で売れればいいが、それが受け入れられる保障はまったくない。政府も文科省も「予測できない未来」という言い方を多用するが、そうした未来に現在の画一性が受け入れられるのかどうか疑問である。
 例えは良くないが、学校という工場で効率的に生産された商品が大量に売れ残り、破棄処分される可能性だってあるのだ。

 そして7月8日夕方、中央教育審議会に5歳児の教育を検討する特別委員会「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」が設置された。工場化に5歳児まで巻き込む動きが始まったのだ。

 小学校入学前にまで強制されようとしている教育の工場化は、はたして肯定していいものなのだろうか。大阪市の久保校長が抱いた疑問を、学校現場、教育現場は持たないのだろうか。このような提言書が相次いで出されてきてもいいような気がする。

 

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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