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【授業時間数はどうなる?】「授業時数特例校制度」から紐解く文科省の思惑

第85回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■学習指導要領は法律ではないはず

 これが学習内容を決める「絶対的なもの」にされていくのは、1958年改定の「学習指導要領」からである。このときから、文科省は学習指導要領を「官報」に掲載するようになり、それによって「国家基準として法的拘束力をもつ」と主張していくのだ。
 官報は、政府が国民に知らせる事項を編集して刊行する公告文書である。つまり法律ではないのだが、「法律と同じだ」というのが文科省の主張なのだ。

 もちろん、それには異論もあるが、文科省の主張に従って「法律と同じ」として学習指導要領に従って教育を実施しているのが、現在の学校現場でもある。
 学習指導要領を絶対のものにしたければ法律で決めればいいようなもので、そうしないで「法律と同じ」と主張したのは当時の政治状況が大きく影響している。

 当時は日本教職員組合(日教組)が急速に勢力を拡大しており、学習指導要領についても、国による教育への不当な介入であるとして反対運動を繰り広げていた。法律で決められていたわけでもないのに文科省(当時は文部省)は学習指導要領によって学習内容を押し付ける傾向を強めており、それに日教組は抵抗していたわけだ。
 この日教組からの攻撃を、「法律と同じ」という解釈によってかわそうと文科省は考えたことになる。それなら法律化すればいいようなものだが、それでは日教組の反発を強めるだけで、簡単には法律化できないと判断したのかもしれない。

 ともあれ、学習指導要領を「絶対的な存在」にすることに文科省は成功した。それが、いまも続いている。
「こういう時数配分と学習内容にしたい」と学校現場が考えたとしても、実際にはとても難しい現状になっているのだ。法律で決まっていることではないのだが、学習指導要領を絶対的な基準にしているのが学校の姿でもある。

 そこに、来年度から導入されるという新制度である。前述したように動かせる授業時数には上限もあるし、授業時数を増やして充実させる学習内容についても、学習の基盤となる言語能力、情報活用能力などの育成、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成などが挙げられており、決して「自由」ではない

 つまり、文科省が求めている教育を深められる「特例校」をつくろうとしているにすぎないといえる。そうであれば、学校現場の「自由」を認めるのではなく、文科省の方針を徹底していくための新制度でしかない。
 教育の内容を決めるのは文科省なのか、それとも学校現場なのか。新制度が検討されているなか、もういちど考えてみるべきテーマかもしれない。

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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