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【授業時間数はどうなる?】「授業時数特例校制度」から紐解く文科省の思惑

第85回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

学習指導要領


各教科の総授業時数を学校が一定の条件下において、任意に増減できる「授業時数特例校制度」案が検討されている。しかし、学校現場の考えが自由に実現できるわけではなさそうだ。「学習指導要領」の役割と実態、そして文科省の考えなどとともに検証したい。


■学校は自由に授業時数を変更できるのか

 小中学校などでは特定の教科の授業時間数の1割を上限に減らし、別の教科に上乗せできる制度を来年4月から創設する方針を文科省が決めた。
 制度案が説明されたのは、6月28日に開かれた第11期中教審初等中等教育分科会の教育課程部会でだった。これによって学校の自由度が上がるようにも思えるが、話はそう単純なことではなさそうだ。

 各教科の総授業時数は、学校教育法施行規則によって決められている。昨年度より本格実施された小学校の学習指導要領から、3年生から6年生までの総授業時数は35時間増えた。今年度から新学習指導要領が本格実施になった中学校では総授業時数は変わらないものの、国語、数学などの科目の授業数は増えたが、総合的な学習の時間などは減った。
 これはつまり、文科省の定める学習指導要領によって管理されていることになる。

 第11期中教審初等中等教育分科会教育課程部会で示された新制度案は、「1割を上限に」という制限下において、学校の判断で授業時数を減らしたり増やしたりしていいというものだ。たとえば、数学の時間を1割減らして、その減らした分を国語の授業に充ててもいいということになる。
 一見「教え方」について、学校の自由裁量を認める方向と思えなくもないが、そうではない。この新制度には、「授業時数特例校制度」という名称がついている。そこから分かるように、この制度が適用されるのは一部の「特例校」だけということになる。「教え方」を学校現場の自由にさせない、文科省の強い意志を感じる。

 授業時数に関連した学校の教育計画を、「教育課程」という。その教育課程について、文科省は「その編成主体は各学校である」と説明してきている。しかし実際は、学習指導要領によって縛られてしまっていることを、学校現場にいる人なら誰もが知っている。各学校の編成主体は、学習指導要領の「枠」の中での自由でしかない。

 この学習指導要領が最初につくられたのは、戦後まもない1947年のことだった。その最初の学習指導要領には、「(試案)」の文字が付いている。そして、その「序論」には、次のように述べられている。

「直接に児童に接してその育成の人に当たる教師は、よくそれぞれの地域の社会性の特性を見てとり、児童を知って、たえず教育の内容についても、方法についても工夫をこらして、これを適切なものにして、教育の目的を達するよう努めなくてはならない」
 さらにこうもある。
「この書は、学習の指導について述べるのが目的であるが、これまでの教師用書のように、一つの動かすことのできない道をきめて、それを示そうとするような目的でつくられたものではない」

 学習内容を決めるのは教員であり、学習指導要領で決めるものではない、ということだ。学習指導要領は、教員が学習内容を決めるにあたっての参考」でしかない、との位置づけである。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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