自民党新総裁・高市早苗、公明党の連立解消で排外主義ポピュリストへの接近と政界再編。一挙に右傾化が加速する危険性大【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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自民党新総裁・高市早苗、公明党の連立解消で排外主義ポピュリストへの接近と政界再編。一挙に右傾化が加速する危険性大【中田考】

《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第1回】

自民党新総裁・高市早苗

 

序.宗教地政学と比較文明論

 

 この論考は日本の政局を論ずる時評の第一回となる。筆者は、これまで宗教地政学の立場から、現代世界の動向を分析してきたが、その基本的な分析枠組みは比較文明論である。

 

◾️1.文明とは何か

 

 筆者は、国際政治学者S.ハンチントンの「人類の下位集団のアイデンティティの最大の単位」、「人類を他の種から区別する文化的同一性の総体」「言語、歴史、宗教、習慣、制度といった客観的要素と人々の主観的な自己同定の双方によって規定される」(サミュエル・ハンチントン(鈴木主税訳)『文明の衝突』集英社、1998年、51頁)との文明の定義を出発点としている。

 ハンチントンは現代の主要文明を①西洋文明(Western)②儒教文明(Confucian / Sinic)③日本文明(Japanese)④イスラーム文明(Islamic)⑤ヒンドゥー文明(Hindu)⑥スラヴ=正教文明(Slavic-Orthodox)⑦ラテンアメリカ文明(Latin American)【⑧アフリカ文明(African)の可能性も示唆】の7つ、あるいは8つに分けている。それはトインビーに依拠するところが大きいが[1]、トインビーによると現存する主要文明は①西洋文明(Western)、②正教キリスト教文明(Orthodox Christian)、③イスラーム文明(Islamic)、④ヒンドゥー文明(Hindu)、⑤中華文明(Sinic)、⑥日本文明(Japanese)、⑦ラテンアメリカ文明(Latin American)、⑧アフリカ文明(African)の8つとなる。

 

サミュエル・フィリップス・ハンティントン(1927−2008)。アメリカ合衆国の国際政治学者。著書に『文明の衝突』。

 

 トインビーとハンチントンはいずれも日本を中国文明の影響を受けた中国の周辺文明でありながら中国とは異質の独立文明と見做している。筆者は文明論的には日本文明は広義の東アジア多神教複合中華文明圏の一部であると考えるが、むしろ筆者にとって重要なのは日本が「帝国」であるとの論点である。

 

◾️2.“帝国日本”の意味

 

 文明と同様に、“帝国”という概念も多義的である。したがって、日本を“帝国”と呼ぶことの妥当性は、当該概念の定義と、それを用いることによって何が明らかになるかというヒューリスティックな有用性に依存する。その有用性は本稿の中で明らかにしていくことになるが、“帝国”と呼ぶことを正当化する根拠は、①日本を「帝国」と呼ぶべき理由は、元首号としての天皇(皇帝:emperor)の称号を古代より現代まで保持していること、②明治₋大正₋昭和の三代にかけて大日本帝国を正式な国号としたこと、③中世、近世においてローマ帝国の教皇と皇帝、イスラーム帝国のカリフとスルタンと相同的な天皇(朝廷)と将軍(幕府)の帝国に典型的な権威と権力の分有構造を有したこと、④琉球・アイヌを支配し、時に朝鮮半島にまで帝国的拡張を実行したこと、⑤古代より「くに」とは地方政権であり中央政権は「王の上の王」として帝国的権威を有していたことにある。

 

◾️3.宗教地政学と“帝国日本”

 

 本稿ではこの“帝国”日本を文明史の中に位置づけるが、トインビーが述べているように世界の主要文明の地理的範囲は15世紀以来大きく変わっていない。日本では鎌倉幕府が元寇を退けた13世紀の末と16世紀末の秀吉の朝鮮出兵の間にあたる時期である。

 

アーノルド・ジョゼフ・トインビー(1889−1975)。イギリスの歴史家・歴史哲学者。代表作に代表作は『歴史の研究』がある。

 

 この時点では「西洋/西欧(Western)」文明は辺境の一文明でしかなかった。しかしルネサンス、地理上の発見、宗教改革、市民革命等を経てウエストファリア条約の締結により「領域主権国家」(ウエストファリア)体制の構築に成功し旧西ローマ帝国地中海北部領内の「内乱」を収束させた西欧は、軍事革命、科学革命、産業革命を経て急速に力をつけ、フランス革命/ナポレオン戦争による啓蒙主義に立脚し「世俗的ナショナリズム」を公式イデオロギー(国教)とする「領域国民主権国家」システムによって、帝国主義列強として世界制覇に乗り出した。

 19世紀には西欧は巨大なインドのムガール帝国を滅ぼし直轄領/植民地化し、オスマン帝国、ペルシャ帝国(カージャール朝)、中国帝国(清朝)も次々と経済植民地化され、西欧の覇権は「領域国民主権国家システム」によって世界を覆い尽くすことになった。[2]

 スラブ・正教文明はピョートル1世がセントペテルブルクに遷都し西欧化による近代化を推し進めることで1721年に「ロシア・ツアーリ国」から「ロシア帝国」に改称し、非西欧/西洋文明圏国家としては初めて西欧帝国主義列強の仲間入りを果たした。

 日本帝国(北朝徳川幕府体制)は西欧帝国主義列強に対して鎖国(出島による貿易管理)政策で対応したが、幕末期にはいち早く西欧化による近代化を果たしたロシア帝国に続いて脱亜入欧富国強兵政策により西欧化/近代化を推し進めた。そして大日本帝国は日露戦争の勝利、第一次世界大戦において戦勝国側についたことによって、名実ともに西洋帝国主義列強の一角を占めることになった。

 

[1] ハンチントンとトインビーの文明理解に対する様々な批判と評価については、三宅正樹「比較文明論と国際政治学との接点と追求:ハンチントンの『文明の衝突と世界秩序の再編成をめぐる考察」『明治大学社会科学研究所紀要』41巻1号 (通号57) 2002年10月5-33頁参照。

[2] 西欧による19世紀の覇権確立については、田所昌幸『世界秩序 グローバル化の夢と挫折』(中央公論新社2025年9月9日)、特に「第2章.広域的秩序の興亡 3.西洋の興隆と自滅」参照。

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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