ノンフィクション作家、谷川彰英が名古屋をたどる。寺院の数が日本一多い愛知県。『名古屋地名の由来を歩く』(著・谷川彰英)より、知られざる名古屋の寺院の魅力を紹介する。

名古屋のアサクサ?「大須観音」

 地下鉄鶴舞線に大須観音(おおすかんのん)駅(名古屋市中区)という駅があるが、「大須というところに観音様があるのだな」とすぐわかる。

 この大須という地域こそ、江戸時代から庶民の繁華街として栄えてきたところなのだ。東京でいえば浅草である。

 大須は名古屋の浅草である。先づ浅草観音の大伽藍(だいがらん)、仁王門からずらりと両側に並んだ仲店に似せた門前通り。六区そっくりな、旧遊郭地帯の花園、若松、吾妻町界隈の色っぽさ。劇場映画館の濃厚な色彩等々、如何にもよく似せている。

 猟奇派作家の丸木砂士(まるきさど)は「小浅草」と歎賞したし、浅草芸術の本家、サトウハチローはなもよたもんの浅草と悦んだ名古屋のアサクサである。(沢井鈴一『大須ものがたり』)

 この辺一帯も第二次世界大戦の空襲で、ほとんどの建物が焼かれてしまったが、名古屋の街中では、やはり特異な感じのする街である。名古屋の街は戦後の都市計画が見事であったために、道幅も広く建物も整然とつくられていて、極めて整備された街並みである。

 繁華街の「栄(さかえ)」や「錦(にしき)」にしても、きれいに整っている。東京や大阪のように小さな横丁に飲み屋が並んでいるという光景は残念ながらほとんど見られない。その点で、この大須は東京や大阪の雑踏を感じさせてくれる、ほっとする街なのだ。

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