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安倍外交に見る「失敗の法則」〈後編〉

なぜ安倍外交はうまくいかないのか

 
 
 

■繰り返される国益の損壊

 この記事の前編では、戦後日本の平和主義が、「他国との対立が深刻化しないよう、八方美人的な事なかれ主義」に徹する外交方針へと行き着くことを指摘しました。
 くだんの方針は「低姿勢(外交)」と呼ばれます。けれどもこれでは、自国の戦略や権益を積極的に打ち出すことはできません。

 しかも外交とは、衝突や紛争にいたることなく、自国の戦略を実現し、権益を満たすための手段。つまり低姿勢外交など、本来の意味における外交の否定にほかならず、「軟弱な外交もどき」としか評しえないのです。
 ところがわが国は、低姿勢外交を脱するどころか、グローバリズムの流行によって、自分たちの方針がお墨付きを得たかのように錯覚するにいたりました。グローバリズムとは、要するに「国境や国籍にこだわる時代は終わった」と構える理念ですから、自国の戦略や権益を積極的に打ち出す時代も過ぎ去ったことになるのです。

 けれども現在の世界では、グローバリズムが広まったせいで、国家間の対立はむしろ先鋭化する傾向を見せています。そんな中、低姿勢外交を展開したら、わが国の国益は必然的に損なわれる。
 日本外交は「失敗の法則」とも呼ぶべきものに取りつかれているのです。前編ではその例として、北方領土問題をめぐり、安倍総理がプーチン大統領に完敗した経緯を検証しました。

 とはいえ良くないことに限って、繰り返されるのが世の習い。
 後編はこれを追ってゆきましょう。

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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  • 2018.09.15