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【大本営発表で大阪は大混乱】オンライン授業普及を阻む「現場無視」という課題

第81回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■現場からの声を活かせるか

 自宅学習を市教委に指示されている午前中でも、登校を認める学校が少なからずあった。子どもたちのことを考えれば、そうせざるを得なかったのだ。学校現場は、大混乱をきたした。混乱を招く原因となった松井市長に宛てて、大阪市立木川南小学校の久保敬校長が「提言書」を送ったのは5月17日だった。その提言書には次のように書かれている。

「3回目の緊急事態宣言発出に伴って、大阪市長が全小中学校でオンライン授業を行うとしたことを発端に、そのお粗末な状況が露呈したわけだが、その結果、学校現場は混乱を極め、何より保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている」
 
 これに耳を貸す素振りも見せなかったのが松井市長だった。自らの暴走が学校現場を混乱させたことを認めようともしなければ、反省する様子もまるでない。
 それどころか、「意見を言うことは問題ないが、大きな方針は組織としての決定事項。その設計図に伴った職務を遂行してもらうのは当然。それを否定するなら、公務員としての職責を逸脱している」と、久保校長を責める発言までしている。
 久保校長が提言のなかで、次のように大阪市の教育方針についても意見を述べているからだ。

「学校は、グローバル経済を支える人材という『商品』を作り出す工場と化している。そこでは、子どもたちは、テストの点によって選別される『競争』に晒される。そして、教職員は、子どもの成長にかかわる教育の本質に根ざした働きができず、喜びのない何のためかわからないような仕事に追われ、疲弊していく。さらには、やりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ失いつつある

 松井市長は、よほど久保校長の提言が気に食わなかったらしい。その怒りが、久保校長の地位や仕事まで奪う方向に向かいかねないことを心配して、6月2日、弁護士などの団体が、校長を懲戒処分しないことなどを求める要請書を市教委に出している。

 これに対して松井市長は、報道陣の取材に「彼を処分するなんて一言も言っておりません」と述べている。しかし彼は、「職責を逸脱している」と述べたのと同じ席で、「ルールから逸脱するような形で、教育振興基本計画と違う形で学校運営するとあればルール違反。辞めてもらわないと」と語っている。さらに、「決めたことをやらないというなら処分の対象」とも述べているのだ。明らかに処分について口にしているにも関わらず、完全否定していることになる。

 このような市長の考えや、「処分」を恐れるからこそ、自らの存在を無視されても市教委は抗議できないのだろう。そういった中で、久保校長の提言書は異例だった。そして、正論でもあった。正論すら口に出せない状況こそがおかしいのだ。
 そのような学校現場だとすれば、子どもたちが成長する場としてふさわしいのかどうか疑問である。正論を言えない子どもたちを育てることになってしまいかねない。

 それは、大阪市だけの問題ではない。日本全体の問題でもある。日本の教育現場が正論を言える場になっているのかどうか、問い直す必要があることを、大阪市のオンライン授業をめぐる大混乱が教えている。

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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