プレイヤーとしても、評論家としても。立川談志・一流の「理詰め」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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プレイヤーとしても、評論家としても。立川談志・一流の「理詰め」

大事なことはすべて 立川談志に教わった第7回

■「手紙無筆(むひつ)」という前座噺

 ネタは「手紙無筆(むひつ)」という前座噺でした。師匠の口調を真似るかのように、ソックリに快調にしゃべりました。
 「お前、それ、俺で覚えたのか」
 「はい」
 「……まあ、いい。続けな」
 「よかった、俺の判断は間違ってなかった。これからは師匠の落語をベースにして稽古に励もう。それなら突っ込まれようがないもんな。だって本人のネタだもの」と思った矢先でした。

 なんと師匠は、そのネタすらも細かくチェックし始めたのです。

「待て。おそらくそれは、俺がまだ若い時にやっていたネタだ。その場面はな、俺がその場で観客の思いに応えようとしすぎて、勢いで処理してる噺だ。だいたい、兄貴分のそのセリフに対して、弟分はそんなセリフを吐くか。辻褄(つじつま)が合ったこと言ってるか、よく考えてしゃべらなきゃ駄目だ」

 そうピシャリ。

 普通の師弟関係でしたら、まず弟子は師匠を手本として一字一句真似て会得(えとく)していくのですが、なんと師匠はその手本にすら赤を入れ、その場で再度検証しようとしてしまうのです。これにはまいりました。

「昔なら俺ソックリにやれと言ったものだがな、お前はこの時期に俺のところに入った身の不運と思え。いや、お前の落語家人生にしてみれば、これは幸運になるはずだ。まあ、おまえにその受け皿があればの話だがな」

 どこまでもどこまでも「理詰め」な師匠なのでありました。

   * * *

 修行という名の無茶振り。それが談慶さん、いや、談志さんのお弟子さん全員の芸を成長させる原点になっているのですね。それにしても、無茶振りと言いながら談志さんの「理詰めの分析」はすごいですね。しかし話はそれだけでは終わりません。次回は『志ん朝と談志の違い――談志の魅力その2』と題して、談慶さん独自の分析と理論を語っていただきます。

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立川 談慶

たてかわ だんけい

昭和40(1965)年長野県上田市(旧丸子町)出身。1988年慶応義塾大学経済学部を卒業後、㈱ワコールに入社。セールスマンとしての傍ら、福岡吉本一期生として活動。平成3(1991)年4月立川談志門下へ入門。前座名立川ワコール。平成12(2000)年12月、二つ目昇進、談志より「談慶」と命名。平成17(2005)年4月、真打ち昇進。平成22(2009)年から二年間、佐久市総合文化施設コスモホール館長に就任。平成25(2013)年、「大事なことはすべて立川談志(ししょう)に教わった」(KKベストセラーズ)出版、以来、「落語力」「いつも同じお題なのになぜ落語家の話は面白いのか」「めんどうくさい人の接し方、かわし方」「落語家直伝うまい!授業のつくり方」「なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか」「人生を味わう古典落語の名文句」など「落語とビジネス」にちなんだ書籍の執筆。NHK総合「民謡魂」BS日テレ「鉄道唱歌の旅」テレ朝系「Qさま!」CX系「アウトデラックス」「テレビ寺子屋」などテレビ出演も多数。現在、東京新聞月一エッセイ「笑う門には福来る」絶賛好評連載中


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