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今さら聞けない!まず「満州」とは何か。

2ndシリーズ①「平和ボケ」日本の幕開け

日本の軍部独走・侵略史観に基づく悪玉扱い、逆の「日本は悪くなかった、悪いのは周りの大国だ」という日本小国史観、海外大国による外圧・陰謀史観。これらの歴史観はすべて間違いだ。『学校では教えられない 歴史講義 満洲事変 ~世界と日本の歴史を変えた二日間 』を上梓した倉山満氏が満洲事変の真実に迫る!

■「満州」と「満洲」では大きな違いがある

 一九三一年から三三年の満洲事変、あるいは満洲国建国は日本の侵略だったと世界中から言われています。そうした歴史観を、鈴木善幸(一九八二年教科書問題)、宮沢喜一(一九九三年河野談話)、細川護熙(一九九三年細川答弁)、村山富市(一九九五年村山談話)、安倍晋三(二〇一五年安倍談話)で、歴代内閣が認めてしまっています。

 しかし、世界を見ればどうでしょう。アメリカはアフガン戦争やイラク戦争で傀儡政権を樹立しています。ロシアはグルジア紛争で傀儡国家を独立させています。日本の満洲事変ほどの正統性があるのか。中華人民共和国がチベットや新疆ウイグルでやっているような残虐行為を、日本が満洲事変で一度でも行ったか。

 辞書・辞典などで引いてみると満洲はおしなべて、「中国東北部の旧地域名」「中国東北地区の旧称」などと説明されています。現代の世界地図を見ると、かつて満洲と呼ばれた場所は確かに中華人民共和国内の東北部に位置するので単に地理方角的な説明と思われがちです。しかし、これは実は中華人民共和国が公式にこの地域を「中国東北部」と呼んでいるのに従っているだけです。

 満洲関係の学術書を開くと、「『満州』は不適切な用語であるが、歴史的な用語に関しては本文で使用する」などと断り、カギカッコつきで「満州」「満州事変」「満州国」「偽満州国」などと表記しています。サンズイを付けることは絶対にありません。

 学術書を売り物にしている吉川弘文館ですらこの体たらくなのですから、他は推して知るべしです。あえて吉川を名指ししましたが、他の分野では立派な学術書を出版している人でも、こと満洲が絡むと学問的良心を捨て中華人民共和国の政治宣伝に屈してしまっているからです。

 このように日本人の研究者は中国人に媚びたつもりで「旧満州」と呼んだりしますが、中華人民共和国は決してそうは呼びません。満洲は、清朝が使った地域名であり、言語の呼び名、民族の呼び名だったからです。中華人民共和国は、清朝の領土は中国固有の領土である、という立場をとります。なお、満洲を東北と呼ぶ言い方は、満洲事変当時からありました。

 言葉ひとつとっても極めて政治的な表現の応酬で、誰もが納得する言い方など存在しないということがわかったところで、清朝から説き起こしましょう。

 清は、一六一六年に満洲の地で建国された満洲人の国です。まもなく満洲人は、モンゴル人と合同し、漢民族を併合して統一王朝を開きます。よく、「清が明を滅ぼした」と勘違いされますが、違います。明を滅ぼしたのは、同じ漢民族の李自成です。その李自成は「順」という国を建てましたが、わずか四十日で満洲人のヌルハチに蹴散らされて滅ぼされてしまいます。言うなれば、織田信長を殺した明智光秀を羽柴秀吉があっという間にやっつけ、天下を統一したのと同じです。信長の天下を秀吉が奪ったと言えなくはありませんが、秀吉が信長を滅ぼしたまで言うと言いすぎなのと同じです。

ヌルハチ=清太祖天命皇帝朝服像(北京故宮博物院蔵)

 さてその後、ヌルハチが金を建国し(後金と呼ばれる)、清と名前を変えます。明が火の王朝だったので、水の王朝として清という名前を選んだのです。満洲人の部族長がモンゴル人のハーンと中華皇帝を兼ねることとなります。イギリス国王がインド皇帝を兼ねたのと同じです。現在の漢民族中心の中華人民共和国からしたら屈辱の歴史です。サンズイの満洲を嫌うのは、こうしたところにも理由があります。もっとも、彼らがナショナリズムを炸裂させるのは自由ですが、日本人が合わせてあげる理由はありません。

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倉山 満

くらやま みつる

憲政史研究家

1973年、香川県生まれ。憲政史研究家。

1996年、中央大学文学部史学科国史学専攻卒業後、同大学院博士前期課程を修了。

在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員を務め、2015年まで日本国憲法を教える。2012年、希望日本研究所所長を務める。

著書に、『誰が殺した? 日本国憲法!』(講談社)『検証 財務省の近現代史 政治との闘い150年を読む』(光文社)『日本人だけが知らない「本当の世界史」』(PHP研究所)『嘘だらけの日米近現代史』などをはじめとする「嘘だらけシリーズ」『保守の心得』『帝国憲法の真実』(いずれも扶桑社)『反日プロパガンダの近現代史』(アスペクト)『常識から疑え! 山川日本史〈近現代史編〉』(上・下いずれもヒカルランド)『逆にしたらよくわかる教育勅語 -ほんとうは危険思想なんかじゃなかった』(ハート出版)『お役所仕事の大東亜戦争』(三才ブックス)『倉山満が読み解く 太平記の時代―最強の日本人論・逞しい室町の人々』(青林堂)『大間違いの太平洋戦争』『真・戦争論 世界大戦と危険な半島』(いずれも小社刊)など多数。

現在、ブログ「倉山満の砦」やコンテンツ配信サービス「倉山塾」(https://kurayama.cd-pf.net/)や「チャンネルくらら」(https://www.youtube.com/channel/UCDrXxofz1CIOo9vqwHqfIyg)などで積極的に言論活動を行っている。

 

 

 

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