■最初は縄跳びすらうまくできなかった

――できない。

田澤 もう全然できないんです。「これきついです」ってこともあるくらい。いままで「重り」を持っていたら自分の体重くらいはコントロールできるのかな、って思っていたんですけど、それが全然(笑)。

 「僕、こんなこともできなかったのか」って。最初、縄跳びがうまく飛べなかったんですよ。

――本当ですか!?

田澤 はい(笑)。「うわー、これもできないんだ」っていうところからスタートしています。

 陸上部の方と一緒に練習をするときは正直恥ずかしいですからね(笑)。陸上部の人は全然できていることを「もっとフォームはこうです、こうして」とか言われて……。

――バリバリのメジャーリーガーが(笑)。

田澤 少しずつでもよくなったらいいなとは思うんですけどね。

 

――たしかに前回(何もなかった無名時代。マーリンズ田澤純一「野球を辞める覚悟で渡米した」)も運動神経は良くないっておっしゃっていました。

田澤 そうですね。陸上の先生に「膝から下はいい脚してるな」って言われます。それって体ほぼ存在してないじゃないですか(笑)。

――はははは。

田澤 「足は速そうだな、膝から下は」みたいな(笑)。そんな次元からスタートしてます。でも必ずものにしたいですね。

――それは、何か変えなきゃいけない危機感からですか。

田澤 もちろんそうですね。ここ数年怪我もしていますし、何かを変えなきゃいけない時期に来ていると思っています。今シーズンに向けてしっかり緻密にしていきたい。チームに貢献したいですから。

――今シーズンは渡米10年目。有無を言わさない「メジャーリーガー」です。

田澤 いやいや、僕は登録日数がまだ少ないので。そもそもそこはあまり考えていないです。少しでも長く野球をやりたいなと思うくらいで、こだわってはいません。先輩の青木さんとか、それこそイチローさんとか桁違いの長さでプレーしている方たちがいますからね。

――とはいえ10年プレーしたピッチャーは野茂英雄さん、大家さんくらいです。野手をあわせてもイチローさん、松井秀喜さんだけです。多少、誇りに思ってもいいのではないでしょうか。

田澤 そういうことは終わってから考えたらいいのかなって思いますね。今は今季に向けてどうするか、ですから。一試合でも多く試合に投げたいですし、その積み重ねが少しでも多くなって、少しでも多く野球ができたらいいなとは思いますけどね。

――うがった見方ではありますが、メジャーに行かれた経緯でいろいろと報道されることもありました。だからこそ10年やったぞ、みたいな気持ちには……。

田澤 いやいや。僕が渡米したことで野球界の後輩たちやENEOSとかに迷惑をかけてしまったとしたらそれは本当に申し訳ないと思います。でもそのときにENEOSは僕がそういうことを気にしなくていいように守ってくれましたから。感謝はしていてもそういう気持ちにはならないですね。

――見返したいというモチベーションよりも恩を返したいという思い。

田澤 そうですね。そういう環境でいさせてくれて僕は恵まれているな、と思いますから。
 そもそもメジャーで通用する、という自信があってここに来たわけではなかったですしね。

――自信はなかった?

田澤 「3年間の契約」の中で成長できるかどうか。メジャーに上がれたら自分が成長できるかもしれない、そう考えて決めたわけで、「俺はできるぜ」みたいなとんがった感じじゃないですから。ほらみろ、みたいなことは全然思わないです(笑)。

――これから数字などで目標はありますか。何歳までやりたい、とか、50試合登板をまだまだ続けたい、とか。

田澤 まあそれはあまり……でも、この厳しい世界で35歳までできる選手ってなかなかいないとも思うんで、そこまで行けたらいいな、とは思いますけど。そのためにもひとつひとつの積み重ねですよね。それがないと契約ももらえないだろうし。だから長期というよりは積み重ねかな。

――尊敬する先輩である斎藤隆さんは35歳で渡米し、自己最速の158キロを出しました。

田澤 別格じゃないですか。異次元ですよね(笑)。
 だってふつう、30代後半で自己最速を出す人って……いますか? 契約すら勝ち取れなかったりするのに、そこで上がっていったっていうのはすごすぎますよね。ふつうじゃない(笑)。
 周りの先輩がみんなすごすぎてよく分からなくなるんですけど、青木さんだって37歳の歳で3年契約ですよね? 本当にすごいです。もちろんそうなりたいという思いはありますけど、すごい努力をされているんだろうとも思いますからね。負けられないとは思いますけどまだまだです。

――今シーズン、前評判を覆す活躍を期待しています。

田澤 ありがとうございます。

 取材中の田澤はいつも謙虚だ。確実に刻むメジャーリーガーとしての足跡を過大評価しない。
 そしていつもチームが彼の中心にある。だからこそ、ここ数年の成績に満足をしない。5年連続50試合登板も、史上3人目の300試合登板も、渡米10年目も「こだわってはいない」と言い切る。
 そのメンタリティは、今オフ、ジーターCEOの大改革で良くも悪くも注目を浴びたマーリンズにおいて欠かせない存在になる。