■「曲を選択するまでに3回以上ボタンを押させるな」

 iPоdが発売される以前から携帯できるデジタル音楽プレイヤーは既に存在していましたが、アップルの開発メンバーにとっては「どの製品もゴミのような代物」でした。「いいな」と思って買ってはみたものの、使い勝手の悪さから「引き出しの奥にしまいこむ」ようなものでした。

 市場に出ているのは小型でポケットに入るものの、20~30曲くらいしか保存できないものと、たくさんの曲が保存できるものの重くてポケットに入らないものに分かれており、これでは決して使いたくもないし買いたくもならないというのがジョブズの感想でした。そこから「自分ならどうすればこの製品を使う気になるだろう?」とユーザー視点で考えた結果として誕生したのが「一千曲をポケットで持ち運べる」iPоdです。

 当然、ジョブズは細かく、そして驚くような要求を突き付けています。たとえば、電源を入れたり切ったりするボタンは「いらないよ」と廃止、「曲を選択するまでに3回以上ボタンを押させるな」と要求しています。その時点ではいずれも非常識な要求でしたが、「究極のユーザー」とも言えるジョブズの言う通りに製品をつくってみると、「こっちの方がずっといい」となるのがジョブズの不思議と言えます。

 このようにiPоdにはたくさんのジョブズ流のユーザー視点が盛り込まれていますが、さらにユーザーの視点で強引に交渉を進めることで世界中の音楽ファンを虜にしたのがiTМSの開発です。

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