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iPodはなぜあんなに使いやすかったか

「曲を選択するまでに3回以上ボタンを押させるな」ジョブズのひと言

■「音楽を売る人間は自分も一音楽ファンであることを忘れるな」

 当時、音楽業界ではインターネットを通じた音楽ファイルの違法交換、言わば「海賊行為」が盛んに行われており、デジタル音楽を楽しむためにはこうした海賊行為に手を染めるか、高いお金を払ってCDを買うか、あるいは大手レコード会社がばらばらに行っていた使い勝手が悪く、品ぞろえも不十分な楽曲販売サービスを使うしかありませんでした。

 これは一般の消費者はもちろん、大の音楽好きのジョブズにとっても我慢のならないことでした。音楽ファンが欲しいのは大手レコード会社のすべての楽曲が揃い、合法的かつ簡単に一曲単位でも適正な価格で購入できる、そんなサービスでした。こうしたサービスが成立すれば、音楽ファンは大歓迎ですが、音楽をつくり、そして売っている大手レコード会社は必ずしもそうではありません。

 ジョブズによると、最初に大手レコード会社に接触した時、「曲単位で音楽を売りたい」という申し出は「アルバムへの死亡宣告」ととられるほど強い抵抗があったといいます。すべてのレコード会社を説得して、音楽ファンが望むようなサービスを実現するのは「不可能」というのが音楽業界みんなの見方でした。

 にもかかわらず、ジョブズは大手レコード会社との交渉を自ら進め、不可能を可能にしています。大手レコード会社の幹部によれば、それを可能にしたのはジョブズの意志の強さとカリスマ性、圧倒的な交渉力に加え、ジョブズ自身が「熱狂的な音楽ファン」であったことが大きいと言います。

 iPоdとiTМSの成功の理由についてジョブズはこう振り返っています。

「音楽を売る人間は、自分の中の一音楽ファンとしての部分を忘れてはいけない」

 ジョブズはビジネスマンであり、卓越した交渉人、プレゼンターですが、製品やサービスの構築に関しては「自分ならどうすればこの製品やサービスを使う気になるだろう」という視点を大切にしています。それは「音楽」も同様で、一音楽ファンとして「最高の音楽の楽しみ方」を追求した結果が圧倒的な成功へとつながっているのです。

参考文献 『スティーブ・ジョブズ偶像復活』(ジェフリー・S・ヤング、ウィリアム・L・サイモン著、井口耕二訳、東洋経済新報社)、『スティーブ・ジョブズ』Ⅱ(ウォルター・アイザックソン著、井口耕二訳、講談社)、『ジョブズ・ウェイ』(ジェイ・エリオット、ウィリアム・L・サイモン著、中山宥訳、ソフトバンククリエイティブ)、『iPоdは何を変えたのか?』(スティーヴン・レヴィ著、上浦倫人訳、ソフトバンククリエイティブ)

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桑原 晃弥

くわばら てるや

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ生産方式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)などの制作を主導した。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『ウォーレン・バフェット成功の名語録』(PHPビジネス新書)、『伝説の7大投資家』(角川新書)、『トヨタのPDCA+F』(大和出版)など。バフェット関連書籍多数。


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