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フランス・レジスタンス救出成功の陰で散った、イギリス空軍の指揮官

驚異の木製万能機モスキートの活躍 ~フランス・レジスタンスを救出せよ! 「ジェリコー」作戦~ 第5回

1930年代、新型の高速双発爆撃機を求めたイギリス空軍に対し、名門航空機メーカー・デハヴィランド社が提示した試案はなんと、「木製」の航空機だった――。驚異の木製万能機モスキートの活躍を描く連載、第5回。
ドイツ軍に捕らえられたフランス・レジスタンスの面々を救出するため、モスキートを使った前代未聞の爆撃作戦「ジェリコー」が発動されることに。モスキートのパイロットら、そしてフランス・レジスタンスの命運は如何に。

写真を拡大 「ジェリコー」作戦でモスキートによる超低空精密爆撃を受けて爆煙を噴き上げるアミアン刑務所。

作戦成功! だがその陰には犠牲も・・・・

 1944年2月18日、日曜のイギリス上空はあいにくの吹雪だった。1050時、ハンスデン空軍基地のランウェイから、マーリン・エンジンが奏でる軽快な爆音とともに襲撃隊のモスキート各機が、鉛色に垂れ込めた雪空に向けて次々と舞い上がって行った。「ジェリコー」作戦の発動である。
 やがて襲撃隊は直掩のホーカー・タイフーン戦闘機隊と合同。ドイツ軍の対空監視レーダーを避けるためほぼ海面高度で英仏海峡を飛び越え、陸地上空に達すると高度1500mまで上昇。アミアンに北方からアプローチするコースをとり、再び超低空に降下した。幸運にもフランス上空は吹雪が止んで陽が照りはじめていた。だが、第478中隊の1機は対空砲火を被弾し帰還を余儀なくされた。

 第1波を率いる第478中隊長“ブラック”スミス中佐は、一面の雪景色のなかから苦労して国道29号線を見つけ出すと、国道沿いのポプラ並木ほどの超低空を維持し、僚機を従えてアミアン刑務所の東側の塀に投弾。爆弾投下高度は僅か3m。これは、なんと塀の高さの半分の高度である。しかし1発は塀を越えて刑務所の敷地内に落ち、そこで反跳し遅延信管のせいで反対側の西の塀に当たって炸裂し穴を開けた。また、もう1発は建物を直撃した。

 

 こうして襲撃隊は逐次爆撃を加えて行ったが、刑務所から立ち昇る爆煙を透かして脱走する人々の姿を確認すると、それまで緊張でグッと息を詰めていたピカードは、安堵の溜息とともに無線で送話した。
「第3波は投弾の要なし。速やかに帰投せよ」
 すると、第3波の何人かがあげた残念がる嘆きの声が、はからずも襲撃隊の音声通信系に流れた。
「あ~あ」
 今回の「ジェリコー」作戦のおかげで、最大約500名(異説あり)のレジスタンス員が脱走に成功。爆撃に際して彼らに幾分かの死傷者も生じたものの、成功と言ってよい結果が得られた。一方、襲撃隊は1機が不時着し乗員2名が捕虜となり、タイフーンも1機が撃墜されたがパイロットは捕虜となっている。

 本作戦における最大の犠牲は、ピカードと彼のナヴィゲーターを務めていたジョン・ブロードリー大尉の喪失だった。ドイツ空軍きっての精鋭、第26戦闘航空団「シュラゲーター」第2飛行隊のFw190が最寄りのグリシー飛行場をスクランブル発進し、指揮官の責務としてアミアン上空を最後に離脱したピカード機を捕捉。2機に追いすがられたピカード機は反撃して1機を撃退したが、もう1機に尾部を破壊されて墜落し、2人とも戦死を遂げたのだ。だが「爆撃目標上空を最後に離脱するのは指揮官機である」というイギリス空軍爆撃兵団の伝統に則って散華した2人は、「爆撃兵団の鑑」として、その名誉を讃えられた。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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