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エジプト・カイロのサバイバル術。貧者の知恵

「今から思えば、三ポンドくらい…」 カイロ流交渉術③

エジプトには「バクシーシ」の文化が根づいている。これは貧者にとって生活の知恵であり、サバイバル手段だ。カイロ大学に留学していた、かの小池百合子氏もこの「バクシーシ」を求められたという。どう対応したのか。『“闘争と平和”の混乱 カイロ大学』より紹介する。

免許もないのに車で試験場へ来させる

 交渉術といえば、カイロの自動車学校での出来事を思い出します。試験日前日、担当の教官からこう頼まれました。

「試験車が足りないので、学校まで車に乗ってきてくれないか」

 まだ免許もないので車で試験場へ来いというのは、日本ではありえません。

「先生、それでは無免許運転になりますよ」
「問題ない。学校までたどり着ければ、ちゃんと公道を運転できる証明になるじゃないか。合格率が上がるぞ!」

 教官の言葉とも思えませんが、ここはノールールのエジプト。これぐらいでは驚きません。しかたなく私は急きょ友達に連絡して車を借り、学校まで運転して行きました。

 いよいよ試験スタートです。一通りの実技を無事終え、合格かどうか先生の言葉を待ちます。ところが、結果は不合格! 

「どうして不合格なんですか?」と教官にたずねると意外な言葉が返ってきました。
「この車は、違法車だからだ」

 あきれました。自動車に乗ってこいといったのは教官です。常識的に考えれば怒って反論する場面でしょう。

渋滞を狙ってティッシュを売る売り子

 しかし、ここで腹を立てたら交渉になりません。こんなときこそ相手のねらいはどこにあるのかを見ぬかなくてはなりません。教官のねらいは明らかでした。バクシーシの額をつり上げることです。

 バクシーシとはいわゆる心付けのことです。カイロ生活ではさまざまな場面で日々バクシーシが要求されます。ただ、それは純粋な心付けというより、相手から要求されるケースがほとんどです。たとえば渋滞していると、頼んでもないのに雑巾で車の窓ガラスをふいてくれる人が現れます。拭き終わると窓ガラスをたたいて、「バクシーシ!」と請求してきます。

 
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浅川 芳裕

あさかわ よしひろ

1974年、山口県生まれ。ジャーナリスト。エジプトの私立カイロアメリカン大学中東研究学部(1992年から93年)、国立カイロ大学文学部セム語専科(1993から95年)で学ぶ。アラブ諸国との版権ビジネス、ソニー中東市場専門官(ドバイ、モロッコなど)、『農業経営者』副編集長などを経て、『農業ビジネス』編集長。著書はベストセラー『日本は世界5位の農業大国』(講談社+α新書)、『ドナルド・トランプ 黒の説得術』(東京堂出版)ほか多数。訳書に『国家を喰らう官僚たち―アメリカを乗っ取る新支配階級―』(新潮社)。中東・イスラム関連記事では『「イスラム国」指導者の歴史観』『なぜ増える? イスラム教への改宗』(いずれも『文藝春秋スペシャル』)などがある。


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