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北・工作員が中国東北三省に入り込んでいた

中国によって北朝鮮の工作員が大量逮捕!? シリーズ!脱中国を図る北朝鮮⑨

台湾を介した中朝間の激しいせめぎ合い

 中国当局が北朝鮮に対して断固たる措置を取った背景には、北朝鮮が台湾に色目を使って中国側の感情を逆撫でしたためです。

 実は、金正日は金日成主席の存命中から、台湾との関係正常化を強く主張していました。

 その理由は、中国が平壌の反対にもかかわらず、ソウルオリンピックの参加を宣言したことに加えて、韓国との外交関係を結んだことによります。

 金正日は金日成主席に対して、中国がやることに我々がなぜ我慢しなければならないのか、と大騒ぎをしていました。公開の席上で、金父子が中国問題を巡って激しく争っていた事は、北朝鮮の幹部たちの間では、広く知れ渡っていました。

 また、その金正日を刺激したのが朝鮮戦争における「抗米援朝」、つまり中国が北朝鮮を支援するために、アメリカと戦った事に対する補償金を出して貰わなくてはならないと言う中国共産党の高級幹部たちの個人的な発言でした。

 金正日は、それを中朝両国関係がもはや血盟関係ではなくなったという証拠だとして捉えて、中国側による外交的誤解を一応は避けるために、外務省ではなく軍の高級幹部らを極秘裏に台湾へ派遣したのです。

 台湾側による積極的な支援の約束によって、自信を持った金正日は、2000年3月5日に趙明禄人民軍総政治局長、金永春総参謀長、金鎰喆人民武力相を帯同して平壌駐在中国大使館を突如訪問しました。

 金正日は、萬永祥中国大使に「抗米援朝への補償金」発言を問題にして、台湾にミサイルを売って補償すると叱り飛ばしました。

 これに慌てた萬永祥大使は、本国にこの事実を報告しました。

 これに激昂した中国指導部は、その間先送りしていた新任駐北朝鮮大使の人事において強硬派の王国章を任命し、萬永祥大使を本国に召還しました。

 一方、北京駐在北朝鮮大使館にも大使撤収待機命令が下されるほど、中朝両国の関係は冷却したのです。

 このような中国の強硬な姿勢に体制の危機を感じた金正日は、2000年5月29日から31日まで2泊3日の間、中国を非公式訪問することになりました。

 当時、北朝鮮の幹部たちの間では秘かに、「ふざけて金正日が中国大使館を訪ねた結果、北京にまで呼ばれて謝罪した屈辱訪問だ」と囁かれていました。

 中国から平壌に戻った金正日は、中国留学派の幹部たちを粛清したり、改革開放支持嫌疑で取調べを受けていた幹部たちを処刑したりして腹癒せをしました。

 また、「延辺事件」の責任を負わせて、「35号室」の課長ら数人を解任、党から除名し、35号室の組織改編と縮小を断行しました。その処分対象は、中国に進出していた「35号室」傘下の外貨を稼ぐ会社でした。

(『北朝鮮の終幕』より構成)

〈シリーズ!脱中国を図る北朝鮮⑩は2日後に配信します。〉

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田中 健之

たなか たけゆき

 昭和38(1963)年、福岡市出身。歴史家。日露善隣協会々長。拓殖大学日本文化研究所附属近現代研究センター客員研究員を経て、現在、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員、ロシア科学アカデミー東洋学研究所客員研究員、モスクワ市立教育大学外国語学部日本語学科客員研究員。 昭和58(1983)年に中国反体制組織『中国の春』の設立に関与し、平成元(1989)年6月4日に生じた天安門事件を支援、亡命者を庇護すると共に、中国民主運動家をはじめチベット、南モンゴル、ウイグルの民族独立革命家と長期にわたって交流を重ねている。 平成3(1991)年、ソ連崩壊と共にモスクワに渡り、ロシア各界に独自の人脈を築く。 一方、幼少より玄洋社、黒龍会の思想と行動に興味を抱き、長年、孫文の中華革命史およびアジア独立革命史上における玄洋社、黒龍会の歴史的、思想的な研究に従事、それに基づく独自の視点で、近現代史、思想史を論じている。 玄洋社初代社長平岡浩太郎の曾孫に当たり、黒龍会の内田良平の血脈道統を継ぐ親族。 著書に『昭和維新』(学研プラス)、『靖国に祀られざる人々』(学研パブリッシング)、『横浜中華街』(中央公論新社)、『実は日本人が大好きなロシア人』(宝島社)その他、共著、編著、雑誌など多数。



 


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