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【教員の残業代】非正規教員が開けた小さな穴の行方

第54回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教員は「点」を「面」へと変えられるか

 非正規の場合、雇用期間が決められている。校長や教委に「次の雇用はない」と言われてしまえば、それでお終いなのだ。継続して雇用してもらうためには、校長や教委の機嫌を損ねてはいけない。だから、不満があっても文句は言えない、という。
 そんな雰囲気の中では、勤務時間確認書と実際の勤務時間が違っていても指摘しにくい。言われるまま、残業していてもサービス残業になってしまう勤務時間確認書に押印するしかないのではないだろうか。

 今回、市教委は未払い賃金の支払いに応じたものの、それを全ての非常勤に適用するつもりはないようだ。『中日新聞』の記事は、「市教委は他の非常勤講師の労働実態については申し出がない限り調査しない考えだ」と伝えている。
 非正規教員から申し出がなければ、市教委が積極的に調べて未払い賃金の支払いはしない、というわけだ。非正規が「文句の言えない雰囲気」の状況を、市教委は見抜いているのかもしれない。

 雇用継続を優先して、申し出をする非正規は少ない可能性が高い。支出増につながる積極的な調査もしない。
 1人の非常勤講師(非正規教員)が労基署に申告することで、たしかに「風穴」が開いた。ただし放っておけば、穴はふさがってしまうだろう。
 この穴を広げ、時間外労働への対価、つまり残業代が支払われる「まっとうな状況」にしていくためには、非正規からの申し出がどんどん行えるようにしなくてはならない。非正規が「調整弁」で終わらない、第一歩かもしれない。

 名古屋市の場合でいえば、まずは勤務時間確認書に言われるままに押印しないことではないだろうか。正確な勤務時間と合致していることを確認したうえで押印する覚悟が必要になる。

 それとて、「文句の言えない雰囲気」のなかでは簡単なことではない。1人や2人だけがやっても、孤立させられ、潰されてしまいかねない。そうならないためには、非正規のまとまりが必要になってくる。
 非正規だけの問題ではない。不正確な勤務時間確認書には異を唱えて訂正させいく環境づくりには、正規も積極的に関心をもつことが欠かせない。

 

■オール教員で「定額働かせ放題」を変える

 正規教員のなかには、「非正規の問題は自分たちには関係ない」とする声があるかもしれない。それは正規と非正規の「分断」につながるし、教委をはじめ管理する側には都合のいい状態でもある。経済界でも、分断が非正規が増えていく要因にもなっている。不満を大きくせずに、抑えられるからだ。

 「風穴」が名古屋市だけでなく全国的に広がっていけば、それは正規教員の待遇にも影響してくるはずである。非正規には残業代を払うのに正規には払わないのか、という声が必然的に大きくなっていくはずだからだ。
 そうした声が、教員の「定額働かせ放題」を変えていく第一歩になるだろう。それは社会全体の非正規問題にも大きな影響となっていくはずだ。そのためにも、名古屋市の「風穴」を大きく広げていく動きを止めてはいけないのではないだろうか。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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