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「お母さんの味」、まだ信じてるの?

【ワンオペ育児】を藤田結子氏が徹底解説3/3

「今さら聞けない」ニュースのキーワードについて、「分からないことはなんでも聞いちゃう」いまドキの社会人、トオルくんとシズカちゃんが第一人者の先生たちに話を聞いていきます 

長時間労働が解消されても男性は家事をしない?

シズカ…子育てママたちを過酷な状況に追いやっている「ワンオペ育児」は、日本の企業の雇用慣行や社会保障制度の不足なんかが原因だって分かったけど、これって個人の力じゃどうにもできないことよね。

藤田(結子:明治大学教授。著書に『ワンオペ育児』がある)…そうですね。ワンオペ育児は家庭内だけのことではなく、本来なら社会全体の問題だと考えるべきです。ただし、たとえ働き方改革などによって長時間労働が改善されたとしても、必ずしも家事分担が平等になるとは限りません。

トオル…えっ!? いくらなんでも、男性だって早く帰宅できたら家のことぐらいやるんじゃないですか?

藤田…それが、統計を見るとそうとも言い切れないのです。日本の男性は、EU諸国の男性と比べて、家事育児に積極的でないことは第1回〈ママ達は過労死寸前「ワンオペ育児」の現状〉でお伝えした通りです。それは休日も同様で、4~5割の男性が土日でもまったく家事育児をしないことが分かっています。もちろん、土日も出勤しなくてはいけない仕事もありますが、それを差し引いても休日になにもしない男性が2~3割はいると予想されます。

トオル…でも平日忙しかったら土日は何もしたくなくなるもんなぁ。結婚後もこれだと、奥さんに愛想つかされちゃうかも……。

シズカ…疲れているのは妻だって同じ! そんなの不平等よ!

藤田…家事育児の負担が女性に偏ってしまうのには、会社や社会制度だけでは説明できない部分があるんです。ちなみに、シズカちゃんとトオル君に聞きたいのですが、女性が愛情をもって子育てをすることは子どもの成長にとっていいことだと思いますか?

シズカ…そうね……改めて聞かれると、いいことのような気がします。もし将来子どもができたら、なるべくママの手作りの料理を食べさせてあげたいかな。

トオル…「お母さんの味」って子どもにとってはいいものだよね。

藤田実はそこが肝なんです。「家事育児を通した愛情表現」はどうしても母親との結びつきが強くなります。ですが、共働き家庭の夫婦が協力して家庭のことを進めるのなら、「父親も一緒に掃除をしたり料理することが子どもにとってもいいことだ」という意識をもつことも大切ではないでしょうか。

シズカ…確かに。男性が家事をしないのはずるいって思っていたけど、私自身が「母親の愛情込めた料理や世話」が子どもにとっては絶対に大切だって思い込んでいたのかも……。

藤田私が現在実施している調査でも「女性が愛情をもって子育てをすることは子どもの成長にとっていいことですか」という問にはほとんどの母親が「はい」と回答しますね。​

トオル…でも、子育ては妻がやるものって思い込んでいたら、気軽に育児や家事をアウトソーシングするなんてできないね。

藤田…実は、江戸時代はお家を前提とした社会でしたから、後継ぎとなる子どもの教育は父親が熱心に行っていましたし、戦前も自営業や農家が多かったため、子どもの世話は家全員でするものでした。女性がひとり家に残って家事育児をするのが当たり前になったのは、戦後にサラリーマンの核家族世帯が増え、専業主婦が一般的になってからです。

シズカ…「子育ては女性」って価値観は日本人のなかに根深く残っているようだけど、意外にも最近生まれた常識だったのね。

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藤田 結子

ふじた ゆいこ

明治大学商学部教授。東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒、米国コロンビア大学大学院で修士号を取得後、英国ロンドン大学大学院で博士号を取得。2016年から現職。専門は社会学。調査現場に長期間、参加して観察やインタビューを行う研究法を用いる。日本や海外の文化、メディア、若者、ジェンダーなどについてフィールド調査をしている。著書に『ワンオペ育児』(毎日新聞出版)など。


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  • 藤田 結子
  • 2017.06.21