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財務省の「少人数学級の効果はない」に対する教員からのブーイング

第53回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■「主体的・対話的で深い学び」をどう実現する?

 

 別の教員は、「新学習指導要領では『主体的・対話的で深い学び』を謳っていますが、それを実現するためにも少人数学級が必要です」と語る。
 現在の30人以上のクラスでは、教員が全員と「対話」するには、物理的にも時間的にも厳しい。子ども同士での「対話」も、人数が多すぎて困難だという。「対話」を重視するなら、やはり少人数学級にしていく必要があるのだ。

 その少人数学級に否定的ということは、新学習指導要領そのものに財務省や歳出改革部会は反対しているということになってしまう。新学習指導要領に必死に取り組もうとしている教員にすれば、聞き捨てならないことなのだ。
 新学習指導要領をつくった文科省は、財務省に反論すべきだし、怒ってもいいところだ。

 また、「ソーシャルディスタンスを保ちながら対話的で深い学びを実現するためにも少人数は欠かせません」という声もあった。
 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)予防のためのソーシャルディスタンスはもはや常識とされている。それは、学校においても同じことだ。

 ところが、現在の教室ではソーシャルディスタンスの確保は難しい。「33人の小学4年生を担任していますが、現在の子は体格がいいせいもあって、けっこう距離が近い」と発言する教員もいる。そこで「対話」をやろうとすれば、ますます距離が近づいてしまうことになる。それだけでも、少人数学級を実現しなければならない理由になる。

「文科省が言う『深い学び』が現在の30人以上のクラスで保証できますか?」という声も、複数の教員から聞かれた。
 新型コロナが治療できるようになったとしても感染防止に気を配る必要はあるし、他の感染症に対しても防止策に注力していかなければならない。それが、新型コロナでの教訓でもあるはずだ。だから、現在の過密状態の教室を放置しておくわけにはいかない
 少人数学級を実現し、ソーシャルディスタンスが確保できる学級規模にしなければ、子どもたちは安心して学べない。対話的で深い学びを実現することができないのだ。

■感染対策の観点からも少人数化が必須

 

 新型コロナによって学校現場は、「3密(密集、密接、密閉)回避」に必死に取り組んできている。その努力を推し進めるためにも、少人数学級の実現が必要になる。
 しかし財務省は、「学力向上に効果はない」と言うばかりで、感染防止策に触れようとはしない。新型コロナ感染予防のための学校現場の努力を評価しないどころか、無視している。教員たちが怒るのも、無理はないだろう。

 萩生田光一文科相は11月13日の閣議後記者会見で、「令和の時代の新しい学校の姿として、私としては30人学級を目指すべきだと考えている」と言及している。
 文科省として30人学級、つまり現在のクラス定員の上限を40人から30人とする目標を公言したわけだ。40人学級を一気に20人学級にもっていくのは難しいという判断からの30人学級なのかもしれないが、学校現場では20人学級の実現が望まれている

 そうした現場の声も聞かないで「学力に効果はない」とする財務省の姿勢には、かなり問題があるのではないだろうか。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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