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大混乱の米大統領選で見られる「コロナと反グローバリズムとアメリカ」の真実(仲正昌樹)

分断が深まるアメリカはどこへ行くのか?


大接戦のアメリカ大統領選。民主党候補バイデン前副大統領がほぼアメリカ大統領に指命されるのが確実になった。しかし、トランプ支持者がいまだ行われている開票を妨害し、さらにトランプ大統領は提訴の動きに出ている。それに反発する市民の動きも活発化。さらなる混乱を極めようとしている。アメリカの分断は拡大するばかりに見えるが、今後アメリカはどうなっていくのか? 分断はさらに深まっていくのか? 新刊『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』が話題の哲学者・仲正昌樹氏に「大混乱の大統領選」で明らかになった世界の今を分析してもらった。緊急寄稿。


トランプ大統領は、バイデン前副大統領勝利の開票結果に予想通り提訴の動きを示している。

 各種のメディアで散々言われていることだが、今回のアメリカ大統領選は何度もどんでん返しが起こる、異様な展開になっている。

 通常は、現職の大統領が圧倒的有利であるとされているにもかかわらず、直前までの世論調査や出口調査では民主党のバイデン前副大統領が、八~九%程度リードしていた。しかし、開票速報が伝えられ始めて数時間経った四日の正午前後から、トランプ大統領がフロリダなどを制して、有利になっていると伝えられた。そこでトランプ氏で決まりだと断言するメディアや評論家が出てきたが、接戦州で郵便投票分などが開票されるにつれ、いくつかの州で、バイデン氏の票が上回り始めた。それに対しトランプ氏は、これらの州では不正が行われているので開票作業を中止すべきだとしたうえで、一方的に「勝利宣言」した。私がこの文章を書いている日本時間五日正午過ぎになっても、どっちの勝利か判明せず、不正を疑う人たちによる暴動が起こりかねない緊迫した事態が続いている。

 どうしてこうなったのか分析するために、以下では、まず、トランプ氏が追い詰められた理由を、①コロナ問題、②人種問題、③反グローバリズム、の三点から考察する。

 ついで、それなのにどうして土壇場になってトランプ氏が盛り返す現象が生じたのか、まだ世論調査などの客観的判断材料が出そろっていないが、この三点に即して推測してみたい。

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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  • 仲正 昌樹
  • 2020.08.25