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カズオ・イシグロ「名翻訳家」が選ぶ、イチオシの作品とは?

『充たされざる者』は押さえておくべき1冊だ。 土屋政雄氏インタビュー③

カズオ・イシグロの陰に名翻訳家あり――。ノーベル文学賞を受賞、いま話題のカズオ・イシグロ。その代表作『日の名残り』『わたしを離さないで』から最新刊『忘れられた巨人』はいずれもひとりの翻訳家の手によって、私たち日本の読者の元に届けられている。BEST T!MES編集部が、その翻訳家・土屋政雄氏に独占インタビュー。最終回は、カズオ・イシグロ作品の魅力、そしてカズオ・イシグロへの思いを聞いた。

決して作品には没頭しない。翻訳家の冷静な目線

 土屋さんとカズオ・イシグロさんの関係は、翻訳家と原作者。そこには適度な距離感があるという。一読者として、カズオ・イシグロの世界観にのめり込んでいるわけではない。しかし、だからこそ冷静なイシグロ評には説得力がある。読者へのオススメの1冊を聞いてみた。

「やっぱり『日の名残り』は最初に紹介したようなエピソードもありますし、内容の完成度も一番高いんじゃないかと思います。

 他には『充たされざる者』でしょうか。これは私の家庭の事情があって、他の方に翻訳はやってもらったのですが。この作品は彼の作家活動のターニングポイントになったと思っています。

 イシグロの最初の2作は日本が題材です。おそらくイシグロとしてはあそこで自分のルーツを再確認できたはず。そして『日の名残り』。全くイギリス小説らしいイギリス小説ですよね。ここで5歳以降に住んできたイギリスという国、最終的にはイギリス国籍もとるわけですが、自分はやっぱりイギリス人でもあるというもうひとつの根っこを確認した。ここでなんとなく、安心や自信を得たんじゃないでしょうか。
ノーベル賞関連記事:カズオ・イシグロが受賞出来た理由は?

次のページ解き放たれて書いた『充たされざる者』

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土屋 政雄

つちや まさお

翻訳家。主な訳書に『日はまた昇る 新訳版』(アーネスト・ヘミングウェイ)、『ダロウェイ夫人』(ヴァージニア・ウルフ)、『ねじの回転』(ジェイムズ)、『コンゴ・ジャーニー』(レドモンド・オハンロン)、『エデンの東』(ジョン・スタインベック)など。ほか『日の名残り』にはじまり、『わたしを離さないで』、『忘れられた巨人』などカズオ・イシグロ作品を数多く翻訳。


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