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大阪都構想、事実を知るほど「反対」になる〜これこそ「大阪都構想の真実」です〜(川端祐一郎)

「賛成派ほど、都構想の制度内容を誤解している」という驚愕の調査結果

5.「経済効果1兆円」の根拠も誤解されている

 大阪市の副首都推進局が作成した都構想の説明パンフレットには「特別区の設置による経済効果」というページがあって、「特別区の財政効率化効果が、10年間で1.1兆円」といった試算が掲載されています。これも市の委託に基づいて嘉悦学園が試算したものなのですが、金額が途方もなく大きいので、発表当時は「都構想の経済効果 1兆円超」として新聞等でも大きく取り上げられましたし、大阪維新の会も積極的に紹介している数値です。

 ちなみに、この「1兆円」の効果の計算根拠を私も確認したのですが、データに対する解釈が根本的に誤っているとしか思えませんでした。簡単にだけ説明しておきましょう。

 日本の全市町村の「住民1人あたり歳出」を比較すると、小規模な町村では非常に大きな額になるのですが、人口が増えて中規模の市になるにつれて、スケールメリットが生まれてかなり小さな額になってきます。ところが、さらに人口規模が大きい政令指定都市になると、1人あたり歳出が、中規模の市よりもむしろ少し高い額になります。

 これはなぜかというと、一つは、政令指定都市は一般の市と違って多くの仕事が都道府県から移譲されており、権限の幅が広いからです。また、政令指定都市というのは「大都会」であり人口や事業所の密度が高いので、より高度なインフラが必要になりますし、市営の動物園・美術館・大学など充実したサービスを提供してもいるので、必然的に歳出は多めになるわけです。

 ところが先ほどの報告書は、「政令指定都市で費用が高くなるのは行政の効率が悪いからだ」と解釈し、政令市を分割して「中規模の自治体」にすれば無駄がなくなり、結果として10年で1兆円の費用が節約できると主張しているのです。これはあまりにもひどい曲解だと言わざるを得ません。

 実際には、政令指定都市は「大都会だから」「権限が大きいから」多くの費用がかかっているわけです。大阪市を分割しても大阪が突然「田舎」になるわけではないし、都構想で手放す権限は大阪府に移管されるだけですから、1兆円の効果など出てきようがないはずです。

 アンケート調査に話を戻しましょう。この、報道を賑わせた「1兆円の経済効果」が何によって生み出されると思うかを尋ねたところ、多くの人が「二重行政の解消効果」だと誤解していることが判明しました。とくに、都構想「賛成」派のじつに54.2%もの人が、誤って理解しています。先ほど述べたように、その報告書では「二重行政の解消効果」は年間たったの数億円とされているのですが、完全に混同されて伝わっているのでしょう。(混同しなかったとしても、その1兆円の計算自体が、上で述べたように信用に値しないわけですが。)

6.正確な情報の周知を

 10年で1兆円もの効果が生み出されるというなら、大阪都構想もやる価値があるかも知れません。しかしその試算の根拠は上のとおりいい加減なもので、しかもその上、効果が生まれる理由も多くの人に誤解されて伝わっています。このような状況で、都構想を実施すべきか否かについて冷静な判断をすることは、難しいと言わざるを得ないのではないでしょうか。

 また本稿で述べたきたように、都構想は「正確に知れば知るほど反対したくなる」ような改革案であり、「賛成派ほどその中身を誤解している」のであり、少なくない割合の人が「基本中の基本すら理解せずに賛成している」のが現状です。

 せめて住民投票までの残り数日間で、少しでも多くの市民に正確な情報が周知されることを、願ってやみません。

 

文:川端祐一郎(専門=公共政策論)/京都大学大学院・レジリエンス実践ユニット助教、表現者クライテリオン編集委員

 

【著者略歴】

 

川端祐一郎(かわばたゆういちろう)

京都大学大学院助教。大阪府立豊中高校、筑波大学第一学群社会学類(政治学専攻)卒業、京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。隔月刊オピニオン誌『表現者クライテリオン』編集委員。メールマガジンも連載(https://the-criterion.jp/author/kawabata/)。大阪都構想に関連して、201912月に論文『自治体の「適正規模」論の系譜と自治体「分割」への適用の妥当性に関する研究』(実践政策学、52号)を執筆。共著に『名言読解日本語』(多楽園出版)、『流行語で学ぶ日本語』(外語教学与研究出版社)、『日本がわかる、日本語がわかるベストセラーの書評エッセイ24―』(凡人社)。

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かわばた ゆういちろう

川端祐一郎(かわばた・ゆういちろう)

京都大学大学院助教。大阪府立豊中高校、筑波大学第一学群社会学類(政治学専攻)卒業、京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。隔月刊オピニオン誌『表現者クライテリオン』編集委員。メールマガジンも連載(https://the-criterion.jp/author/kawabata/)。大阪都構想に関連して、201912月に論文『自治体の「適正規模」論の系譜と自治体「分割」への適用の妥当性に関する研究』(実践政策学、52号)を執筆。共著に『名言読解日本語』(多楽園出版)、『流行語で学ぶ日本語』(外語教学与研究出版社)、『日本がわかる、日本語がわかるベストセラーの書評エッセイ24―』(凡人社)。

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