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【意味ある議論の骨法】結果(成功)のための問いを立てる——目的と戦略の視点が大事《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉝》

命を守る講義㉝「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。


岩田健太郎
すべては、成功(結果)のために

■韓国との比較に意味はない

 日本国内の新型コロナ対策について、よく韓国と比較する議論が出てきますね。でも、「韓国は検査数が多い、日本は少ない、どっちが正しいんだ」というのは、じつは意味がない質問です。というのも、韓国と日本とでは、置かれているシチュエーションが全然違うからです。

 韓国では、宗教的な集まりによって、ごく一部の地域でワッと患者さんが増えました。だからその地域の感染の拡がりをストップする必要があった。そのためには、宗教行事に参加して濃厚接触した人をすべて検査する必要がある。だからものすごく検査数が増えたんです。
 でも同じ韓国でも、他の地域ではあまり患者さんが出てないから、それほど検査していません。
 だから「韓国では」「日本では」という問いの立て方がそもそもおかしくて、韓国のどの地域で、何を目的にして、どんな戦略を取っているかが大事なのです。

 日本では、韓国と同様に同じ地域で感染が拡がったのは今のところダイヤモンド・プリンセスだけです。だからダイヤモンド・プリンセスでは全員を検査しましたよね(本年3月)。

 ということは、日本でもこれから宗教儀式やらで患者さんがワッと増えたら、韓国と同じことをするに決まっているんです。
 でも日本では、まだそういうことは起きていない。北海道でパラパラ、名古屋でパラパラ、東京でパラパラと、小規模なアウトブレイクが分散して起きてるだけです。

 韓国みたいなことが起きてないのに、韓国と同じ対策を取るのは、ナンセンスですよね。「なんで韓国と同じくらい検査しないんだ」という議論も「韓国のやり方は間違っていて日本が正しいんだ」という議論も、同じようにおかしいのです。

 これはぼくがよくするたとえですが、とあるラーメン屋では月に1瓶コショウを仕入れており、別のラーメン屋では3瓶仕入れているとしましょう。この時、コショウの消費量が3倍違うわけですが、「どっちのコショウの量が正しいの?」なんて質問、しますか?

 要はラーメンが美味しければそれでいいのであって、コショウを何瓶消費するかは基準じゃないですよね。
 「お宅はもっとコショウを使うべきなんじゃないのか」みたいな話は、ラーメンを食ってから言うべきです。
 コショウが足りないと思えば当然足せばいいし、多すぎると思えば減らせばいい。あくまでも基準は味であって、瓶の数でコショウの適正な消費量を決めようとするのはナンセンスです。

  いま日本で起きている「韓国では何件PCRをやってます、日本では何件しかやってません」という議論は、「韓国ではコショウの瓶をこんなに使ってますよ、日本ではこれだけしか使ってませんよ」と言ってるのと同じで、全く意味のない議論なんです。

 それを踏まえた上での話ですが、ぼくも、日本はもうちょっと検査の数を増やしたほうがいいとは思います。特に、感染者が捕捉しきれていない大阪や兵庫では、PCRする範囲をもっと拡げたほうがいい(本年3月時点)。

 では、それができていないのはなぜか。

 なぜなら保健所も病院も、ただの行政上の文書にすぎない厚労省の基準に呪われすぎているからです。
「新型コロナウイルスの真実㉞へつづく)

岩田健太郎

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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