【狩女子】なぜジビエを生で食べたらダメなの? その危険に迫る! |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【狩女子】なぜジビエを生で食べたらダメなの? その危険に迫る!

【第29回】都内の美人営業マンが会社を辞めて茨城の奥地で狩女子になった件

■寄生虫にも気を付けよう! アニサキス? 肺吸虫? ザルコシスティス・フェアリー?

 ジビエ生食の危険ですが、ウイルスだけではありません。そう「寄生虫」です。
 魚介類ではアニサキスが有名ですが、ジビエにも寄生虫のリスクはあります。その一つが「旋毛虫(せんもうちゅう)」です。世界的にはブタを宿主としている事で有名な寄生虫ですが、日本での発生例はクマ。人間に感染した場合、吐き気や下痢、腹部のけいれんや微熱を引き起こします。さらに幼虫が筋肉に侵入すると、筋肉痛や発熱・頭痛、呼吸や発声に使う筋肉に痛みが強く出ます。重症化すると心臓、脳、肺などに炎症を起こす場合もあり、まれに死亡する場合もあります。

旋毛虫の幼虫画像。粘膜内で産出された幼虫は筋肉へと移行し、被嚢(ひのう)という硬い部屋を作る。/写真提供:旭川医大寄生虫学講座

 感染例はあまり多くありませんが、1981年の12月から1982年の1月にかけて三重県四日市市の旅館でツキノワグマの冷凍肉のサシミを食べた413人中172人(!?)が、発疹・顔面浮腫・筋肉痛・倦怠感などの症状を訴え、ツキノワグマの冷凍肉から旋毛虫が検出されました。このツキノワグマは京都府・兵庫県で捕獲されたもので、仕入れ業者は解体後販売時まで-27℃で保存し、三重県四日市市の旅館は仕入れ後は-15℃で保存し、刺身で客に提供していました。
 2016年には茨城県水戸市の飲食店で集団感染がありました。北海道で狩猟されたヒグマの肉のローストを常連客が持ち込み、加熱不十分なまま飲食店で提供したことによって感染したそうです。ヒグマを喫食した経営者を含む31名のうち、なんと21名が何らかの症状を訴えました。
 クマ以外にもキツネやタヌキ、アライグマからも旋毛虫が検出されていますが、日本では家畜やシカ・イノシシからは検出されてはいません。旋毛虫を予防するためにはしっかりとした加熱処理が必要です。低温に耐性があり、冷凍しても死滅しません。

「クマなんて食べないし大丈夫~♪」と言う方、残念ですが寄生虫はほかにもまだまだたくさんあります。カニは好きですか?「肺吸虫(はいきゅうちゅう)」という寄生虫がいます。主な感染源は淡水に住むサワガニやザリガニ、モズクガニなどの甲殻類、そしてそれらを食べたイノシシです。感染すると下痢や腹痛、発熱などに加え、喀血(かっけつ)や呼吸困難などの肺結核のような症状を引き起こします。脳へ侵入した場合、頭痛、嘔吐、てんかん様発作、視力障害などを示して死亡することもあります。関西地方、南九州でイノシシからの感染例が多く、地元の食習慣によりイノシシを生食した事例が多かったようです。予防策ですが、こちらも生や加熱調理が不十分なままでジビエ、カニやザリガニを食べないようにすることです。

ウエステルマン肺吸虫の中間宿主であるモクズガニ。大きい方がメスで小さい方がオス。/写真提供:旭川医大寄生虫学講座

 さらに「ザルコシスティス・フェアリー」(東京都福祉保健局ほかではサルコシスティスなどと呼称)という寄生虫はウマや犬、そしてシカにも寄生します。馬刺しにより感染する事例が多く、軽度の下痢や嘔吐を起こします。2015年には滋賀県の飲食店で、加熱不十分な鹿肉のあぶりからも感染が発生しています。さらにこの寄生虫は爬虫類や鳥類にも寄生しますので、カモなどのジビエを食べる際にも十分に注意してください。こちらの予防策ですが、マイナス20℃(中心温度)で48時間以上冷凍処理すると、食中毒を防ぐことができます。
 ちなみに冷凍処理についてですが、寄生虫とひと言で言ってもそれぞれ別の生き物なので、低温に弱いもの、強いものがいます。特に旋毛虫の中には-18℃で5年間(!)生存可能な種類もあり、一般的な家庭用冷凍庫の平均は-18℃ですので、寄生虫の予防は出来ないと思ったほうが良さそうです。

馬肉に検出された「ザルコシスト」(多数の虫体が詰まったもの:左の写真A)と、その中に入っているブラディゾイト(虫体の総称:右の写真B)。/写真提供:国立感染症研究所

【終わりに。誰のせいでもない、取捨選択するのは貴方】
 如何でしたでしょうか? 本当はジビエの生食のリスクとしてもっとたくさんの事例を紹介したかったのですが、文字数の関係でなかなかそうはいきません。私は危険だからジビエを食べるな! と伝えたいわけではないのです。他の命を奪い糧とするのだから、自分ではない“何か”を自分の身体に取り込むのだから、リスクがあるのは当然です。それはジビエに限らずとも同じこと。私が伝えたいことは、リスクを学び、正しく恐れ、適切に対処すればジビエは美味しく素晴らしいものだという事です。
 なお今回はE型肝炎ウイルスおよびザルコシスティスの画像は国立感染症研究所さまに、旋毛虫とウエステルマン肺吸虫イメージのモズクガニの画像は旭川医大寄生虫学講座さまに許可をいただき、お借りしました。
 さて次回は“狩猟動画”というジャンルについて、そして私が“狩猟動画”を撮り続ける理由についてお話させて頂きたいと思います。この連載を通して私の、私たちの想いが、少しでも誰かに繋がり、そして何かのお役に立てれば幸いです。

 

※参考
厚生労働省/「E型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A」
長野県食品衛生協会/「信州ジビエ衛生管理ガイドライン・衛生マニュアル」
内閣府 食品安全委員会/「寄生虫による食中毒にご注意ください」
国立感染症研究所/「わが国における旋毛虫症」
横浜市衛生研究所/「旋毛虫感染症(トリヒナ症)について」
鳥取県庁広報課/「野生鳥獣肉(ジビエ)の衛生」
国立感染症研究所/「E型肝炎とは」「ザルコシスティス総論」ほか
仙台市役所/「クマ肉による旋毛虫食中毒が発生しました」
一般社団法人 日本感染症学会HP

KEYWORDS:

オススメ記事

Nozomi

ノゾミ

茨城県の新米猟師。本業はヨガのインストラクター。東京に10年以上住んだ後、一念発起して茨城へ移住。ヨガレッスンの傍ら、おばあちゃんの畑のお手伝いをしている。畑に出る猪を駆除するために“狩猟免許”を取り仲間と共に害獣駆除を開始。近年の猟師・農家の高齢化・減少の現実受けて少しでも若い人に、そしてたくさんの人に“農業”について、“狩猟”について、そして“いのち”について興味を持って持ってもらいたいという想いから2019年1月よりYouTubeにて“Nozomi's狩チャンネル”を配信。2020年にはワーキングウエア(作業服)・防寒着・安全靴・長靴、レインスーツの専門店チェーン<ワークマン>公式アンバサダーにも就任。



♦Nozomi's狩チャンネル

https://www.youtube.com/c/nozomikarichan



♦ランドネたのしみ隊第一期生


この著者の記事一覧