打撃コーチの仕事。スランプの選手にどう対応するべきか。石井琢朗「タク論。」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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打撃コーチの仕事。スランプの選手にどう対応するべきか。石井琢朗「タク論。」

広島カープ・石井琢朗コーチの野球論、第二回

■.意識はどのくらいプレーに影響をするのか

『意志のないところに形はできない』。
 これが、僕の信条です。 コーチという仕事をするようになってからは特にそう思います。と、同時に『勝ちたい』という気持ちも選手のとき以上に強くなって来たのも確かです。
 では「勝つためにはどうしたらいいか?」。打撃コーチとして「勝つ野球とは?」「勝つための攻撃とは?」と、自問自答する毎日。 そこには、もちろん選手個々のスキルアップが必要不可欠なわけで……。
 その中で、もっとも重要になってくるのが『意識』の問題のような気がしています。

 

■.スランプに陥る理由を考えてみる

 例えば、一流と言われる打者でも20打席ノーヒットなどという、いわゆるスランプみたいな状態に陥いる場合があります。 果たして、その原因は技術的な部分なのかということです。
 もちろん、多少はフォーム(技術的な部分)が崩れていたりはするのでしょうが、でも大半は気持ちの部分だったりします。 いくら、いいフォームいい形で打とうしても、対峙する相手(投手)は、いかにして打たすまいか、崩そうかと投げてくるわけですから、打者は「崩れて当たり前」。逆に崩されながらも打ってナンボです。
 仮にいい形、いいフォームで打てたとしても『H』のランプがつかない限り、打者というのは気持ちが悪いもの。それが続くと、いわゆる『どツボ』にハマっていくわけで、決して悪くないものまで悪いと考え始める。そこはもう、技術的なものでなく、ほとんど気持ちです。 だから、それが不本意なフォーム、不本意な当たりであっても『H』のランプが点いた途端、次の打席からポンポンとヒットが出たりするじゃないですか。
 じゃあヒットが出始めたときと、ヒットが出ていないときとで違う打ち方、形なのかと言ったら、決してそうではないはずです。もちろん、僕ら打撃コーチとしては 応急処置として、多少の変化をつける場合もありますし、それが仕事なんですが、でも結局は気持ちなんですよね。

 バッティングに関しては、技術があったうえで、そこに「意識」がついてこないと結果を出すことができない、と言えます。だから打撃コーチの仕事も同じように考える必要があります。打てる形、つまり技術を育てること、そしてそこに「意識」をつねに存在させることです。

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石井 琢朗

いしい たくろう

広島東洋カープ1軍打撃コーチ。1970年8月25日生まれ、栃木県佐野市出身。栃木県足利工業高等学校在籍2年時に夏の甲子園にエースとして出場。1988年、ドラフト外で横浜大洋ホエールズに投手として入団。高卒1年目でいきなり初先発初勝利を挙げるものの、野手への思いが捨てきれず1992年から内野手に。以降、攻守の要として活躍。1998年には不動の一番打者として最多安打、盗塁王を獲得。チーム38年ぶりのリーグ優勝、日本一に貢献する。2009年に広島東洋カープに入団。2012年からはコーチとしてカープを支え、25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。著書に「心の伸びしろ」「過去にあらがう」(前田智徳・鈴川卓也と共著)などがありいずれも大きな反響を呼んだ。


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