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ライフネット生命・出口治明氏は、自分の「ポスト」と「仕事」を経済学で考えた

出口治明さん5月毎日更新 Q.3 ライフネット生命の会長を退任される理由はなんですか? PART3

戦後初の独立系生保となる「ライフネット生命」を起業し、「インターネット生命保険」という新市場を切り開いた出口治明さん。先日、 6月25日の株主総会後に同社の会長から退く、というニュースが流れた。開業当時、出口さんは60歳。還暦を迎えてから本格的な起業を成功させた「還暦ベンチャー」としても話題になった。あれから10年。退任を決めた心を出口さんに聞いた。

僕の個人的な事情と言えるかもしれないが…

 

 ライフネット生命の会長職を退任する3つの理由として、1つ目に、人間として大切なことは、次の世代を育てることで、社長を両翼から支える30代の若い取締役2人を前面に立て、僕は後陣から若い世代を支える役割に回ろうと思ったこと。
 2つ目にダイバーシティ(多様性)こそが世の中を動かす。ライフネット生命の現在のお客さまの大半は、30代を中心とした若い世代であり、そうであれば、次の10年のイメージも若い経営陣を前面に押し出した方が望ましいと考えたことを述べてきました。

 3つ目は、僕の個人的な事情と言えるかも知れません。

 僕は創業した時に、密かに「常に社員に寄り添おう」と心に誓い、実践してきました。インターネット販売のライフネット生命にとって、お客さまとの大事な接点であるコンタクトセンター(電話受付)は、平日夜10時まで、また週末も開いています。

 僕は、夜10時までに講演などが終われば必ず帰社して社員の顔を見、また週末東京にいれば必ずコンタクトセンターに顔を出すようにしていました。

 しかし、昨年の秋ごろから時折そのまま帰宅するようになりました。これは、僕の体が陣頭指揮ではなく後陣に回るように促しているのだと思ったのです。

 僕は、人生はトレードオフだと思っています。
 僕は腕時計を30歳で捨てたのですが、なぜかと言うとすごく短気だからです。時計をしていると当たり前ですが時間が気になる。とくに待ち合わせに遅れて来る人には、いつも腹を立てていました。それで、なんでそんなにイライラするのかよく考えたら、腕時計をしているから、時間が気になる、いっそ外してしまえという結論に達したのです。そうすると気持ちも楽になり、時計の代わりに道行く人をじっくりと眺めることができるようになりました。しかも、こちらの方が楽しい。
 人生は二つのものを同時に手に入れることはできない。何かを得れば何かを失う。人生はすべてトレードオフです。

 トレードオフで大切なことは、選ぶということより捨てるということです。何か新しいものを得ようと思ったら、何かを捨てなければなりません。その捨てた場所に新しい物が入る余地が生まれるのです。

 早く意思決定ができる人は、決断力に長けている人ではありません。意思決定のマイルールを決めている人なのです。

 それは、トレードオフの原理をよく理解し、潔く割り切るということです。そのためには、自分なりの決め方、マイルールを持つということがとても大切です。

 今回、会長職を退任することも、マイルールに照らし合わせてのことです。

 もちろん、これからもライフネット生命のために全力を尽くして働くことに変わりはありません。

 ただ役割としては陣頭指揮から後陣に回り、次の世代を育てることやライフネット生命をよりよく知っていただくことなどに注力しようと考えています。

 皆さん、これからもライフネット生命を支えてくださいますよう、どうかよろしくお願いいたします。

明日の質問は「Q.4 そもそもお金とは何なのでしょうか?」です。

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出口 治明

でぐち はるあき

ライフネット生命会長。1948年、三重県生まれ。京都大学を卒業後、日本生命に入社。企画部などで経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長などを務めたあと同社を退職。2008年にライフネット生命保険株式会社を開業した。


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