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まゆゆの引退が百恵、あややたち先輩アイドルよりも「尊い」理由

古風で王道的スタイルを貫いたまゆゆ

■二十代の半ばを過ぎると可愛い仕事だけではやっていけない

 ただ、それが哀しいかな、アイドルの現状であり、実態なのだ。長い歴史を振り返っても、清純派のまま引退した人は少ない。80年に引退した山口百恵は前年に三浦友和との恋人宣言を行なったうえでの寿退職だった。13年にw-inds.の橘慶太と結婚して活動を休止した松浦亜弥にいたっては、こんな発表をした。
「今年の冬で12年の付き合いになりますが、私の青春には、すべて彼がいます。悲しいこと、辛いこと、嬉しいこと、楽しいこと全部です」

 アイドル生活が交際期間とほぼ重なっていたわけで、彼女に「青春」を捧げたファンはガッカリだろう。今回、まゆゆとあややの「引き際」を並べて賞賛する記事も見かけたが、両者のスタンスにはかなりの違いがあることを強調したい。
 とにかくアイドルの引退は、大半のケースが男絡みだ。そんななか、17年に芸能界を去ったももちこと嗣永桃子などは例外中の例外だろう。幼児教育の道に進むという理由は、結婚とは別の女子っぽさを感じさせる理想的なものだった。

 ちなみに、彼女の引退年齢は25歳。まゆゆが26歳での決断なので、この二十代半ばというあたりが清純派を貫ける限界なのかもしれない。というのも、その年代を過ぎると、可愛い仕事だけではやっていけないからだ。

 卒業後に女優業を選んだまゆゆにしても、いずれはヨゴレ役、場合によっては脱ぐ役をこなすことになった可能性がある。昨年の朝ドラ『なつぞら』で演じたのは彼女のイメージの延長上にあるものだったが、それでも結婚し、出産をする役だった。

 やはり、少女性や処女性で勝負し続けるのは難しいのだ。そういう意味で、アイドルは期間限定的な存在に他ならない。そこで連想するのが、ネパール仏教における「クマリ」だ。数ある条件を満たした幼女が選ばれ「生ける女神」として初潮を迎えるまで信仰の象徴を務める。その名はズバリ、サンスクリット語で「少女」「処女」を指すという。

 アイドルの場合は、初潮を迎えた頃から処女(的イメージの)喪失あたりまでが対象年代だろうが、いずれも期間限定の「偶像」というわけだ。霊力をなくしたと見なされ、役目を終えたクマリが普通の人間に戻るように、アイドルもそうなるのが究極のかたちかもしれない。二次元のキャラと違って、生身の少女にとって老いは不可避なのだから。

 二次元といえば、まゆゆはアニメファンとしても知られ「なつぞら」でもアニメーターを生き生きと演じていた。また、AKBに「スーパー研究生」として光宗薫が登場したときには、そのアニメから抜け出てきたような少年っぽい魅力のとりことなり、
「光宗カヲルくんが最強だよね。噂の13期生! かっこいいよねー」
 と、ブログで絶賛していたものだ。「薫」を「カヲル」と表記したのも、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の影響だろう。ちなみに、光宗はわずか10ヶ月でAKBから離脱した。その理由が「体調不良」だったことも、まゆゆと通じるものがある。

 なお、まゆゆの引退はその理由も劇的だった。アイドル・サイボーグとまで呼ばれた彼女もやはり生身の人間であり、完璧なアイドル像を体現し続けることに疲れ果て、病んでしまったかのような印象ももたらしたからだ。疲れ果てた姿を見せずに去るのも、完璧なアイドル像にこだわった彼女の美学だろう。

 アイドル史上、最も尊い引退を、我々は目撃したのである。

 

 

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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