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「人生の隠し味」を味わう感覚を磨き、生きる実感を得る。ドイツ人禅僧の教え

今日を死ぬことで、明日を生きる。①

「いまを生きる」ということは、「今日が自分の最期の日になるかもしれない」と思って生きるということです。そうすることで、今日という日を、自分の人生の中で最善の一日にすることができるでしょう。(本文より)
日本仏教に魅せられたドイツ人禅僧、ネルケ無方の新刊『今日を死ぬことで、明日を生きる』より、珠玉のエッセイを紹介。生きるヒントが必ず見つかります。

刺激の少ない人生を味わう

 年を重ねるごとに、喜怒哀楽の感情が薄れていくのを感じる人も多いと思います。

 いままで好きだったことにも関心がなくなり、「生きている実感を取り戻したい」という焦燥感ばかりがわいてくる……。

 ですがこれは、仏教的にいえばむしろよいことです。喜怒哀楽が薄れたことで、精神が安定している状態だからです。

 つまり、欲を満たすことでしか〝生きている実感〞を得ることができなかった状態から、解放されてきたということです。

 仏教的にはよいことでも、それで悩んでしまう人もいるかもしれません。それはなぜかというと、それまで外からの「強い刺激」でしか、自分の欲を満たすことができなかったからです。

 強い刺激を求めず、年をとったらとったなりの、生きる実感を考えてみてはいかがでしょうか。

 孫の成長を見守ったり、畑仕事をしたり、編み物を編んだり……、そういう控えめな生きる実感もあります。ときには、玄関の周りを少し掃除するだけで、喜びを味わうこともあるのです。

「激しい刺激がないと生きている実感がない」という人は、控えめな生きる実感になかなか気づきにくいものです。

 若いときに食べておいしかったものと、年をとってからおいしいと感じるものが違うように、趣味や生きがいも年齢とともに変わってきます。

 若いときはサーフィンが好きだった人が盆栽やガーデニングが好きになったり、ロックなどの激しい音楽ばかり聴いていた人がクラシックや演歌を好むようになったりと、嗜し 好こうが変わることもあるでしょう。

ネルケ無方 撮影:さとうわたる

 強い刺激ばかり求めていた人にとっては、盆栽やクラシックなどでは満たされない気持ちになることもあるでしょうが、徐々に、隠し味のような味わいを感じとることができるようになるのでしょう。

 禅も同じです。ただ壁に向かって坐るだけでも、それなりの隠し味があります。

〝味覚〞を磨いていけば、深い味わいに気づくはずです。

「人生の隠し味」を味わう感覚を磨いて、人の役に立つことにも目を向けてみるとよいでしょう。

 これまでにない、味わい深い、生きる実感が見つかるかもしれません。

今日を死ぬことで、明日を生きる』より 明日は『転んでも立ち上がる。「苦しみ」との上手なつき合い方を覚える。』②です。

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ネルケ 無方

ねるけ むほう

 禅僧。曹洞宗「安泰寺」堂頭(住職)。ベルリン自由大学日本学科・哲学科修士課程修了。 

1968年、ドイツ・ベルリンの牧師を祖父に持つ家庭に生まれる。

16歳で坐禅と出合い、1990年、京都大学への留学生として来日。

 兵庫県にある安泰寺に上山し、半年間修行生活に参加。1993年、出家得度。

 「ホームレス雲水」を経て、2002年より現職。国内外からの参禅者・雲水の指導にあたっている。

 著書に、『ドイツ人住職が伝える 禅の教え 生きるヒント33』(朝日新書)、『禅が教える「大人」になるための8つの修行』(祥伝社新書)、

 『迷いは悟りの第一歩』(新潮新書)、『日本人に「宗教」は要らない』(小社)などがある。 


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