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タニハ、豊岡盆地は「海の要塞」だった

シリーズ「ヤマト建国は地形で解ける」⑧

常に新たな視点を持ち、従来の研究では取り扱われなかった古代史の謎に取り組み続けてきた歴史作家・関裕二が贈る、『地形で読み解く古代史』絶賛発売中。釈然としない解釈も、その地にたてば、地形が自ずと答えてくれる!? 「ヤマト建国は地形で解ける」をシリーズで紹介いたします。

不思議な豊岡の地形

 ここで無視できないのが、山陰海岸国立公園の東側に位置する旧但馬国の豊岡盆地なのだ。
 ここは、不思議な地形をしていて、海の民の楽園だった可能性が高い。

写真を拡大 国土地理院 色別標高図を基に作成

 豊岡の海岸地帯には急峻(きゅうしゅん)な山がそびえ、その間を円山川が通り抜けている。狭い河口部から、内陸に進むと、両側に高台が迫り、しばらく進んで、ようやく広い平らな土地に出られる。まるで、子宮のような地形をしている。このため、豊岡は平野ではなく、盆地とみなされているのだ。
 鳥取県側から見て、豊岡に向かうには、陸路は難儀するため、船を用いただろう。ただ、豊岡の盆地に入るためには、円山川の両岸の山並みに睨まれる。まるで関門のようなイメージだ。もし西側が豊岡を攻め寄せるとしたら、海岸部の狭い「関」を通り、さらに、円山川を遡らねばならず、ここで激しい抵抗に遭ったことだろう。豊岡盆地は、守る側にとっては、これ以上にない土地だった。

豊岡円山川河口

 当然、海の民は城塞として堅く守り、彼らは楽園をつくりあげたにちがいない。その証拠に、袴は かざ 狭遺跡(兵庫県豊岡市出いず石し 町)から、古墳時代前期(四世紀初頭)の「大船団の線刻画」が出土している。長さ一九七センチ、幅一六センチ、厚さ二センチの杉材に、十六隻の外洋船(準構造船)が、巨大な船を守るようにしている様が描かれていたのだ。豊岡と海のつながりが、はっきりと分かる。

 出雲で盛行した四隅突出型墳丘墓が但馬、丹波に伝わらず、直接越に伝わったのは、「豊岡という海の要塞」が存在したからではないか……。
 そして、ここに棲みついたのが、アメノヒボコだったことは、注意を要する。

次のページアメノヒボコと海の要塞、豊岡

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関 裕二

せき ゆうじ

 



1959年生まれ。歴史作家。仏教美術に魅了され、奈良に通いつめたことをきっかけに、日本古代史を研究。以後古代をテーマに意欲的な執筆活動を続けている。著書に『古代史謎解き紀行』シリーズ(新潮文庫)、『なぜ日本と朝鮮半島は仲が悪いのか』(PHP研究所)、『東大寺の暗号』(講談社+α文庫)、『新史論/書き替えられた古代史』 シリーズ(小学館新書)、 『天皇諡号が語る 古代史の真相』(祥伝社新書)、『台与の正体: 邪馬台国・卑弥呼の後継女王』『アメノヒボコ、謎の真相』(いずれも、河出書房新社)、異端の古代史シリーズ『古代神道と神社 天皇家の謎』『卑弥呼 封印された女王の鏡』『聖徳太子は誰に殺された』『捏造された神話 藤原氏の陰謀』『もうひとつの日本史 闇の修験道』『持統天皇 血塗られた皇祖神』『蘇我氏の正義 真説・大化の改新』(いずれも小社刊)など多数。新刊『神社が語る関東古代氏族』(祥伝社新書)



 


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