出版局長が脳梗塞で半身不随になって経済的に困ったこと・業務に関わるうえでの悩みなど【真柄弘継】連載第8回
【連載】脳梗塞で半身不随になった出版局長の「 社会復帰までの陽気なリハビリ日記」163日間〈第8回〉
③会社の仕事
◾️9月16日月曜日
6月8日(日曜日)に社長へ電話したことで自ら救急車を呼び、自分の手で服を着替え、自分の足で診察台に乗り、けれども明くる日の朝には半身不随となった脳梗塞患者の私。
翌月曜日、またしても社長へ電話した。
脳梗塞になった報告をしたが、それで終わらずに直近の会合のことや仕事のことで、それ以降も会社へ連絡をしていた。
会合の件は仲の良い版元仲間に代わってもらい、細々した引き継ぎも済ますことができた。
仕事は引き継ぎする相手がおらず、LINE電話で唯一直轄の部下である事務子さんに指示したり、確認したりを以降ずっと続けている。
17日間入院していた急性期病院(救急病院)では、呂律が回らないながらもLINE電話で伝わりにくい私の話し方を聞き取ってもらいながら、なんとか急ぎの案件を終わらせることとなった。
いま考えたら、HCU病棟はベッドの間隔が広くて、私は一番奥に寝かされていたから電話してもさほど目立たなかった。
5人部屋へ移動後は一番端とはいえ他の入院患者さんは迷惑だっただろう。
リハビリテーション病院に転院したときに、最初は隔離のため個室だったのは運がよかった。
急性期病院同様にLINE電話で会社と業務の連絡を取り合っていた。
隔離明けで大部屋となったら仕事は出来ないと思い、妻にお願いしてそのまま個室での入院生活とさせてもらったのだ。
LINE電話ではなにかと不便なので会社から新品のノートパソコンを送ってもらった。
以降はリモートで会社と連絡を取り合った。
ネットもメールも可能になったことで、書店のPOSチェックもでき、適宜指示も出すことが可能となった。
けれどだんだんと問題点もわかってきた。
一番困ったのは私が身体障害者というのが伝わりにくいこと。
そもそも身体障害者とは無縁な人たちだけに、時間的な感覚が健常者へ対するものと変わらないのが辛かった。
とにかくなにをするにも健常者の何倍も時間がかかる。
身体障害者になり初めてわかったことだ。
高次脳機能障害がないお陰か仕事はモニター越しに進められた。
しかし私が仕事をサポートすることが脳のストレスとなるのも否めない。
仕事には関わりたい、けれど壊れた脳にはストレス。
心は悶々とするしかない。
回復期のリハビリテーション病院には残り64日はリハビリのために入院している。
退院しても年内は自宅療養しながら社会復帰のためのリハビリを続けていくのである。
会社へ出社できるのが年内なのか、年が明けてからなのか、いまはまだわからない。
この日記はリハビリテーション病院を退院するまでを目処にしている。
はたして無事に書き終わるのだろうか。
文:真柄弘継
(第9回「車椅子から脱却、そして自らの足で歩く」につづく…)

◆著者プロフィール 真柄弘継(まがら・ひろつぐ) 某有名中堅出版社 出版局長 1966年丙午(ひのえうま)の1月26日生まれ。1988年(昭和63年)に昭和最後の新卒として出版社に勤める。以来、5つの出版社で販売、販売促進、編集、製作、広告の職務に従事して現在に至る。出版一筋37年。業界の集まりでは様々な問題提起を行っている。中でも書店問題では、町の本屋さんを守るため雑誌やネットなどのメディアで、いかにして紙の本の読者を増やすのか発信している。 2025年6月8日に脳梗塞を発症して半身不随の寝たきりとなる。急性期病院16日間、回復期病院147日間、過酷なリハビリと自主トレーニング(103キロの体重が73キロに減量)で歩けるまで回復する。入院期間の163日間はセラピスト、介護士、看護師、入院患者たちとの交流を日記に書き留めてきた。 自分自身が身体障害者となったことで、年間196万人の脳卒中患者たちや、その家族に向けてリハビリテーション病院の存在意義とリハビリの重要性を日記に書き記す。 また「転ばぬ先の杖」として、健康に過ごしている人たちへも、予防の大切さといざ脳卒中を発症した際の対処法を、リアルなリハビリの現場から当事者として警鐘を鳴らしている。
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