【安倍首相暗殺犯裁判】山上徹也の殺害動機はそんなに単純なものだったのか【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【安倍首相暗殺犯裁判】山上徹也の殺害動機はそんなに単純なものだったのか【仲正昌樹】

安倍晋三元首相銃撃事件で殺人罪などで起訴された山上徹也被告の初公判が開かれる奈良地裁(2025年10月28日)

 

 返金で山上の教団への恨みが消えたとは思わないが、返金を受けておいて、以前と同じ憎しみを抱き続けるのは不自然ではなかろうか。裁判で山上は、母親の勧めで韓国の教団施設を訪れたこともあると証言しており、一貫して恨みだけ抱いていたのではなく、教団に一定の関心を持っていた時期もあったようだ。

 言うまでもないことだが、ある人が自暴自棄になって重大な犯罪に走ることには、新旧の様々な要因が関わっているはずだ。自分だって、本当はどうしてそういう気持ちになったか、何が決定的な要因か分からないのが普通ではないか。

 山上は、教団の幹部を殺害するための銃の製造に拘り、闇サイトでトカレフの代金を騙しとられるなどして、二百万円も借金している。それだけ借金したのに、実行できないと、教団に負けたことになると思って焦っているうち、安倍さんの方が暗殺しやすいと思って、ターゲットを変えた。そう証言している。

 これが、教団に追い込まれて切羽詰まった人間の行動だろうか。銃への拘りによって、二重の本末転倒をしているように見える。目的よりも手段に拘る本末転倒と、手段に金と手間暇かけたので何か結果を出さないといけないと焦るというのは本末転倒だ。十二月四日の被告人質問で山上は、自殺した兄がガンマニア的な趣味を持っており、その影響を受けたとも証言している。そういう影響があったとすると、話は大分違ってくる。

 普通の刑事裁判の被告人が「私がこうなったのは、二十数年前に遡る、〇〇による心の傷…」と言っても、それをそのまま真に受ける人は少ないだろう。統一教会問題に限って、本人の証言以上に周りの人たちが話を盛って、完璧な悲劇のストーリーを作り上げ、反論を許さないというのは異常だ。

 アニメやドラマであるように、ある秘密結社教団に生涯監禁され、奴隷として働かされていて解放されるにはその教団を解体するしかない、というような話なら、そういうストーリーが近似的に成り立つかもしれないが、山上は物理的に拘束されたことなどなく、交渉して返金も受けているのだ。

 従って、①のような大雑把な議論はおかしいし、安倍さんは教団とそれほど親しいわけではないので、安倍さんを殺すことによって解放される、という④も成り立たない。安倍さんの派閥の選挙に弱い議員の支援を受ける代わりに、(教団そのものではなく)関連団体であるUPF(天宙平和連合)の反共・保守色の強い活動のいくつかに賛同したり、記念写真を取ったりするといった程度で、反対派の人たちが想像するような贈収賄とか闇工作のようなものがあったわけではない。

次のページ安倍元首相が教団の関連団体のイベントにビデオ・メッセージを送ったことがトリガーになった!?

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民主主義国家の政治をいかに動かし統治すべきか?

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「日本は、国論分裂のままにいたずらに時間を食い、国家意志の決定と表明のタイミングの悪さや宣伝下手が災いし、結果的には世界トップ級の経済的貢献をし、汗も流したにもかかわらず、名誉を失うこととなった。

 納税者としては政治の要領の悪さがもどかしく悔しいかぎりである。

 私は「国力」というものの要件は経済力」、「軍事力」、そして「政治力」だと考えるが、これらの全てを備えた国家は、現在どこにも存在しない。

 (中略)

 そして日本では、疑いもなく政治力」がこれからのテーマである。

 「日本の政治に足りないものはなんだろう?」情報収集力? 国会の合議能力? 内閣の利害調整能力?  首相のメディア・アピール能力?  国民の権利を保証するマトモな選挙?  国民の参政意識やそれを育む教育制度?

 課題は随分ありそうだが、改革の糸口を探る上で、アメリカの政治システムはかなり参考になりそうだ。アメリカの政治にも問題は山とあるが、こと民主主義のプロセスについては、我々が謙虚に学ぶべき点が多いと思っている。

 (中略)

 本書では、行政府であるホワイトハウスにスポットを当てて同じテーマを追及した。「世界一強い男」が作られていく課程である大統領選挙の様子を描写することによって、大統領になりたい男や大統領になれた男たちの人間としての顔やフッーの国民が寄ってたかって国家の頂点に押し上げていく様をお伝えできるものになったと思う。 I hope you enjoy my book.」

(「はじめに」より抜粋)

 

◉大前研一氏、推薦!!

 「アメリカの大統領は単に米国の最高権力者であるばかりか、世界を支配する帝王となった。本書は、連邦議会立法調査官としてアメリカ政治の現場に接してきた高市さんが、その実態をわかりやすく解説している。」

 

ALL ABOUT THE U.S. PRESIDENTIAL POWER

How much do you know about the worlds’s most powerful person―the President of the United States of America? This is the way how he wins the Presidential election, and how he rules the White House, his mother country, and the World.

<著者略歴>

高市早苗(たかいち・さなえ)

1961年生まれ、奈良県出身。神戸大学経営学部卒業後、財団法人松下政経塾政治コース5年を修了。87年〜89年の間、パット•シュローダー連邦下院議員のもとで連邦議会立法調査官として働く。帰国後、亜細亜大学・日本経済短期大学専任教員に就任。テレビキャスター、政治評論家としても活躍。93年、第40回衆議院議員総選挙奈良県全県区から無所属で出馬し、初当選。96年に自由民主党に入党。2006年第1次安倍内閣で初入閣を果たす。12年、自由民主党政務調査会長女性として初めて就任。その後、自民党政権下で総務大臣、経済安全保障大臣を経験。2025年10月4日、自民党総裁選立候補3度目にして第29代自由民主党総裁になる。本書は1992年刊行『アメリカ大統領の権力のすべて』を新装重版したものである。

 

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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